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夕学レポート

2022年03月08日

青砥 瑞人「最先端脳科学が教えるストレスを力に変える技術」

青砥 瑞人
株式会社DAncing Einstein CEO
応用神経科学者
講演日:2021年10月19日(火)

青砥 瑞人

今回は、私にとってはじめてのアーカイブ配信による聴講だ。
画面越しの聴講がどんな感じなのか楽しみにしつつ配信日を待っていたのだが、よりによって配信開始日の前日に口内炎ができてしまった。その数、3つ。口の中が熱っぽくてズキズキ痛くて、気がめいってくる。

口内炎の原因はなんとなく分かっている。最近胃の調子が悪いのだ。そして胃の調子が悪い原因はいくつか思い当たる。公私それぞれに、気がかりなことやイライラすることを抱えている。
「あーあ、ストレスを力に変えられたらどんなに良いことか」と、祈りに似た気分を抱えつつ、やけくそ気味に青砥瑞人さんの再生ボタンを押した。

ストレスに対する認識を変える

私たちの脳は、エラー検知に優れている。どちらかというとあら探しが得意で、何に対してもネガティブなバイアスがかかりやすくストレスを感じやすい。でもストレスそのものは、生き物の生存確率を上げるために必要なしくみだ。
たとえば同じことをやるのでも、ただダラダラとやるのではなく制限時間を設けられた時の方がぐっと集中するし注意力も増して短時間にやり終えることができる。ストレスがかかっている方がパフォーマンスが上がる場合もあるのだ。

ストレスをネガティブなものと認識すると、「減らしたい・無視したい・避けたい・抑圧したい」と考えてしまう。でも、あながち悪くないものと認識すれば、「(ストレスに)最適化しよう・(ストレスがかかる状況を)再評価しよう・有効活用しよう・向き合おう」という受け止め方に変わる。
講演中、青砥さんは何度も”Stress is good for me”と口にしたが、青砥さんのようにこの言葉をくりかえし唱えて心の底から信じることができれば自分の中のストレスと友達になれるのかもしれない。

脳のネットワークのひとつに「Central-executive network」というものがあるそうだ。これは脳の中の司令塔で、意識的に物事を考えているときのモード。もうひとつ「Default mode network」というのもあって、これは無意識に近い状態だけど脳が機能しているときのモード。
はじめての場所に行くとき、私たちは地図を見て「次の曲がり角を右へ」などと考えながら体をコントロールしている。一方、通い慣れたオフィスならボンヤリしながらでもたどり着くことができる。この例で言うと、前者が「Central-executive network」、後者は「Default mode network」が活動している状態だ。

「Default mode network」で”Stress is good for me”を実行できるようになれば、とりたてて意識せずともストレスと仲よくなれるという。夢のようではないか。

記憶を作る

ではどうやったら”Stress is good for me”を自然な形で脳に定着させられるのだろうか。
それには、辛い経験と喜びの経験を別々の”点”として意識するのではなく、両方まとめてセットで記憶する練習が効くそうだ。
青砥さんは「同時発火」「ワイヤリング」という用語で説明していたが、なるほど、「できなかった」だけでなく「できるようになった」だけでもなく、「できなかった、でもできるようになった」メタ的に捉えることで挫折や失敗を恐がる度合いを減らすことにつながる。と同時に、自己成長感と自己肯定感を育むことにもなる。

大きな成功や喜びを感じたときには、それまでの道のりをふり返って、途中経過に生まれた小さな成功や喜びにも強く意識を向けるようにするとプロセスの価値を高めることにつながる。「結果がどうなるか分からないが、このプロセスは自分を成長させるし、プロセスそのものにも意味がある」と考えられたら、結果への不安でゲッソリする回数を減らせそうだ。

さて、青砥さんのお話を聴きながら自分の仕事との向き合い方を思い返していたらおそろしいことに気づいてしまった。
それは、私にとって「もっとも高揚するタイミング」が「受注の瞬間」だということ。
私は、仕事のゴールである納品や請求のタイミングはさして感情が動かない。なぜかというと、「無事にやり遂げなければ」というプレッシャーを前にして緊張や焦りや苛立ちを抱えながら仕事しているため、仕事が終わるころには疲弊しきっているからだ。受注から納品までの間にはたくさんの発見や感動が含まれていたはずなのに、それを見落としている。

スタート地点がピークで、その後ずっとネガティブな状態でいるのだとしたら、そりゃ口内炎の2つや3つは避けられないだろう。でもフリーランスになって17年、小さな失敗は数え切れないがクライアントに致命的な損害を与えたことは無い。「できないかと思った、でもできた」を延々とくり返してきた自分をもっと信じてあげなくては、と改めて強く感じた。

講演終了直後はレビュー記事をうまくまとめられるか不安で仕方なかったが、「これまで大丈夫だったんだから、今回も何とかなるだろう」と切り替えて楽しみながら書くことに専念した。
結果、出来の良さはともかくとして、締め切りまでの数日をいつもよりドキドキせず過ごせたのは大きな収穫だった。いつの間にか口内炎も治っている。担当者さんのOKをいただいたら執筆プロセスを丁寧にふり返って、”Stress is good for me”を脳に定着させるための第一歩を踏み出すつもりだ。

(千貫りこ)

青砥 瑞人(あおと・みずと)
青砥 瑞人
  • 株式会社DAncing Einstein CEO
  • 応用神経科学者
小中高は野球漬け。高校は中退。しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。神経科学を心理学や教育学などとコネクトし、人の理解を深め、その理論を応用、また実際の教育現場や企業とコネクトし、人の成長やWell-beingのヒントを与えられたらと、2014年にDAncing Einsteinを創設。対象は、未就学児童から大手役員まで多様。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech®︎/NeuroHRTech®という新分野も開拓。同分野にて、いくつもの特許を保有する「ニューロベース発明家」の顔ももつ。近年では、海外や国連関連のイベントでの講演活動に加え、大手企業やNPO、教育機関と連携、提携し、新しい学び方、生き方、文化づくりに携わる。
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