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藤原 正彦 「知識・論理・情緒」

2006年02月21日

藤原正彦 お茶の水女子大学理学部数学科 教授 >>講師紹介
講演日時:2006年1月25日(水) PM6:30-PM8:30

今日の夕学五十講は、最新著作の「国家の品格」がベストセラーとなっている数学者の藤原正彦氏が登壇されました。
「私の話すことはほとんどすべて偏見、私の思っていることを話すだけです。正しいかどうかはわからない」などと受講者の方々を煙に巻きつつ、ひょうひょうとした話しぶりが印象的でした。


さて、藤原氏は昨今、「知識」を軽視する風潮があるのは良くないと考えています。新たな発見や創造活動において、やはり「知識」は最も重要なものです。子供に対する教育では「自分で考えること」を奨励していますが、そもそも漢字が読めなくて、あるいは九九ができなくて、創造性や独創性が発揮できるはずはない。まずは、子供たちには「知識」を叩き込むことが必要だと考えているそうです。
新たな発見や創造は、ただ机の前に座ってじっと考えていても出てきません。何か別のことをしている時に突然出てくるものだそうです。抽象的な思考が必要とされる「数学的発見」もそうです。例えば、ポアンカレは、ずっと考え続けていた数学の問題の答えが、乗合馬車のステップに足をかけた瞬間にわかったそうです。藤原氏自身、半年間考えて解けなかった問題の解き方が、信州の実家で昼寝をしている時に突然浮かんだということです。
藤原氏は、こうした発見・創造のメカニズムを次のように説明します。
普段、脳の活動は静止状態にあります。これは、箱(脳)の内側に原子がくっついているようなものです。そこで、何かを一生懸命考えると、その原子が箱から離れ飛び出します。さらにずっと考え続けると、考えていない時でも原子は飛び続けます。つまり無意識下で思考している状態になるわけです。だから、ふとした瞬間にアイディアがひらめくのだそうです。ただ、そのひらめいたアイディアを感知するアンテナが必要となります。このアンテナの働きをするのが「情緒」、すなわち鋭敏な感受性だそうです。
藤原氏は、こうした基本的な考え方を踏まえて、創造性、独創性の高い人間であるために必要な条件として次の5点を指摘します。
1つ目は、冒頭で挙げた「知識」です。知識を獲得するためには、大変な努力が求められます。藤原氏によると、天才と呼ばれる人たちは例外なく努力家だそうです。朝早くから夜遅くまでものすごい勉強を続けます。その支えとなっているのが「知的好奇心」です。無理に努力するのではなく、知的好奇心を満たすために長時間勉強に没頭できるのが天才のすごさだそうです。
2つ目は、先ほどの原子を飛び出させるための「精神集中」です。つまり、ひとつのことに集中できなければなりません。これができる人というのは、「世界から戦争をなくしたい」といった、自分にとって身分不相応と思えるような大きな「野心」を持っている人です。しかも、傲慢なほどの自信があればなお良く、逆に、「自分にはどうせできない」と考えてしまうような自己猜疑心の強い人は、大きな仕事はできないのだそうです。
3つ目は、その精神集中を「持続できる」こと。このためには「執拗さ」が求められます。頑固で依怙地であるのは、人間的にはさておき、学者には向いた性格だそうです。すぐにあきらめてしまったのでは、ひらめきにつながらないからです。
また、楽観的であることも重要です。新しい数学の問題を見て、「難しそう」と思ってしまったら思考が停止してしまいます。実際に解けるか解けないかは別として、とりあえず「これは簡単だ」と問題を見下してかかることが大事なのです。藤原氏によれば、数学者というのは、劣等感にまみれた職業だそうです。なぜなら、180日目に問題が解けても、179日目までは解けない状態が続いて、失意や劣等感を味わっているからです。そうしたつらい時期を支えるのが「楽観的であること」なのです。
4つ目が「鋭敏な感受性」です。発見とは、高い山の頂にある美しい花を取りに行くようなものです。そのためには、その花を美しいと感じることのできる感受性が必要です。まず、その花の美しさに打たれ、感動しなければならない。感動が強ければ強いほど、山を登る勇気が出ます。
また、山を登る途中で道に迷う(考えに迷う)ことがあります。その時、どの方向に考えを進めるべきかは、論理ではなく、どの道を進むのが美しいか、といった「美的感受性」で判断する必要があるそうです。
5つ目は、「論理」です。美的感受性で判断した道、すなわちアイディアが正しいものであるかどうかを論理的に検証する力です。
藤原氏は、この5つの条件のうち、特に「鋭敏な感受性」、すなわち「情緒」の重要性を強調します。そして、日本人は本来非常に美的感受性の高い、繊細な民族であることを指摘し、創造性、独創性を高めるためにも、そうした感受性を大切にしていくべきだと考えているそうです。
創造性・独創性を追求するためには、「知識」だけでなく「情緒」がとても重要だという藤原氏の考えには深くうなずけるものがありました。

主要著書
『a href=”http://pt.afl.rakuten.co.jp/c/01272a43.86f206a3/?url=http://item.rakuten.co.jp/book/97625/”>若き数学者のアメリカ』新潮社、1977年(『若き数学者のアメリカ改版』新潮社、1981年)
心は孤独な数学者』新潮社、2001年
世にも美しい数学入門』共著、筑摩書房、2005年
国家の品格』新潮社、2005年
祖国とは国語』新潮社、2006年

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