HOMEへ戻るMCCマガジン平田 オリザ 「演劇の方法論で学ぶコミュニケーション」

平田 オリザ 「演劇の方法論で学ぶコミュニケーション」

2006年06月13日

平田オリザ  劇作家、演出家 >>講師紹介
講演日時:2006年5月16日(火) PM6:30-PM8:30

平田オリザ氏は劇作家、演出家として活躍される一方、世界のあちこちで演劇ワークショップを開いたり、企業の管理職研修でも演劇の方法を教えているそうです。現在は、大阪大学の教授として医者や弁護士など目指している大学院生にも演劇を教えています。平田氏は、医者になるための博士課程で「演劇」が必須科目になる時代が来るのではないかと考えているそうです。それほど、高いコミュニケーション能力が求められるようになってきたということのようです。


そんな冒頭のお話に続いて、平田氏は、「見知らぬ人に初めて話しかけること」が意外に難しいという話から本題に入っていきます。たとえば、電車や飛行機で乗り合わせた人に、「ご旅行ですか?」と話しかけることでさえ、実際にワークショップなどで言わせてみると、くだけすぎてしまったり、逆に緊張して自然に言えない人が多い。これは、特に日本人の場合、立食パーティでなかなか人に話しかけられず壁の花になる人が多いように、他者との接触の経験が少ないという問題もあるようです。
しかし、根本的な問題は、その言葉が持つ「コンテクスト」がコミュニケーションの当事者同士で正確に伝達していないことにあります。コンテクストの直訳は「文脈」ですが、平田さんの説明によれば、コンテクストとは、「言葉の背景にある思いやイメージ」と解釈できそうです。そして、問題は、「砂漠」という言葉を聞いた時に、「砂だらけの場所」を思い浮かべる人もいれば、「ごつごつした岩のある場所」を思い浮かべる人もいるといったように、ある言葉が持つイメージが人によってばらばらな点です。これを、平田さんは「コンテクストのズレ」と呼んでいます。
このため、たとえ単純な言葉でさえ、使い慣れていないとコンテクストのズレが気になってしまい、自然に言えなくなってしまうのだそうです。演劇の例で言えば、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」の一場面、バルコニーのジュリエットにロミオが愛の告白をするところで、当時のジュリエットが住んでいた邸宅のバルコニーがどのようなものか、正確なイメージを役者が持っていなければコンテクストが伝わりません。バルコニーに対して、「物干し台」をイメージしながらセリフを言っても、シェークスピアの劇を演じる役者としては駄目なわけです。
したがって、逆に言えば、相手の言葉のニュアンスがわかること、また言葉の裏にある本当に伝えたいことを読むことが、コミュニケーションがうまくいくために必要だということになります。
別の例では、自分の子どもが学校から帰ってきて、ニコニコしながら、「今日、宿題をやっていかなかったのに、田中先生は怒らなかったんだよ」と言った時、どういう言葉を返してあげるべきか、という問いかけがありました。
たとえば、「田中先生は怒らなくても、宿題はやらなきゃ駄目だよ」という言葉は適切ではないそうです。子どもが上記の言葉を通じて本当に伝えたかったこと、それは、「田中先生は優しい、だから、田中先生が大好きだ」ということです。ですから、親としては、その気持ちを汲み取って「田中先生は優しいね、大好きだね」と言ってあげるべきなのだそうです。
そして、実は「演劇」をやることは、こうしたお互いのコンテクストをすり合わせてズレを解消していくことに役立つのです。演劇という、いわば「擬似共同体」の中で、お互いに異なる文化や価値観によるコンテクストのズレを、相手の人格を否定することなく、うまく解消してコミュニケーションを成立させる能力を演劇で身に着けることができるそうです。
平田さんは、これからのコミュニケーションで大事なキーワードは、「協調性」ではなくて「社交性」だと言います。
誰かと一緒に仕事をするときなど、最初からわかりあえることはありません。初めは、うわべだけのつきあいであったとしても、うまく他者とコミュニケーションしていける「社交性」がこれからの日本人に必要とされているそうです。なぜなら、価値観の多様化、国際化の進展、そして、既に数多くの外国人の方が日本に住んでいることからわかるように、日本も多民族化が進んでいくからです。異文化に育ち、異なるコンテクストを持つ人々とのコミュニケーションがますます増えていくこれからは、わかりあうための「会話」ではなく、お互いの考え方を説明しあう「対話」が必要ということです。
平田さんの講演は、レポートではとてもカバーしきれない楽しいお話が満載でした。夕学五十講への再登場を期待しています。

主要著書
演劇入門』講談社(講談社現代新書)、1998年
対話のレッスン』小学館、2001年
演技と演出』講談社(講談社現代新書)、2004年
演劇のことば』岩波書店、2004年

推薦サイト
http://www.seinendan.org/ 青年団

メールマガジン「てらこや」で更新情報をキャッチ!

「てらこや」は、「学び」を改めて見直すきっかけとなるようなさまざまな情報の提供を目的に発行している無料メールマガジンです。慶應義塾の社会人教育機関である慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)が毎月発行しています(原則第2火曜日)。