KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年06月07日

「人を動かす力」 リリー・フランキーさん

「お願いだから時間通りに来て欲しい!」 きょうは、朝からそればかりを祈っておりました。確信犯的な遅刻常習者と言われるリリー・フランキーさんがいつ現れるのか、主催者としては気が気ではありませんでした。6時半過ぎ“想定の範囲内”の遅れでやってきたリリーさんに、正直胸を撫で下ろしながら、講演がはじまりました。
リリーさんは『東京タワー』のプロモーションのために全国30カ所でサイン会を行いました。一カ所100人限定ではありますが、たっぷりと3時間をかけて、ひとり一人(延べ3000人)と触れあったそうです。
その際に分かったことは、『東京タワー』を読んだ人は、本をきっかけに、家族にまつわるさまざまな体験を重ね合わせて、私的『東京タワー』をイメージしてくれるということだったそうです。リリーさん自身も嬉しかったのは、「お母さんに電話をしました」「先週の週末に会いに帰りました」「一緒に住むことにしました」という感想を多くの人達からもらったことだったとか。かく言う私も、昨年末に読んだ後すぐに、故郷の母親に正月休みの帰省予定を告げる電話をかけた記憶があります。
この話を聞きながら、昨日の夕学で李鳳宇さんがおっしゃった「強い映画」という言葉が頭に浮かびました。李鳳宇さんによれば「強い映画」の最大の条件は「人を動かす力」があることだそうです。『東京タワー』は、人を動かす力を持った近年まれにみる「強い本」だったことは間違いありません。


人を動かす力は、『東京タワー』だけでなく、リリーさんご本人が持つ能力でもあるようで、きょうの夕学は、トークショーというよりは、赤裸々な人生相談室の場でもありました。通常の質疑応答ではありえない率直な悩みや思いをリリーさんにぶつけ、リリーさんは、投げられた重い球をユーモアを一杯に受け止めて、上手にすかしたり、打ち返していきました。あの飄々とした雰囲気と何とも言えぬ信頼感が、リリーさんの真骨頂のような気がします。破天荒で奔放な無頼派のオトンの血筋を引いたリリーさんは、人間の器や物事を受け止める許容度がケタ違いに大きく寛容です。一方で、開放的で人情の機微に通じたオカンの人間性を受け継いでいるので、相手の言葉や表情からこころのヒダや内面の葛藤のようなものを巧みにつかみ取ることもできます。人を素直にさせる力がある人とでもいいましょうか。控室でお聞きしたところでは、学園祭などでトークショーをやると10時間近く続くこともあるとか、参加者全員が思いのたけをぶちまけて帰っていくのだそうです。リリーさんも、ありきたりの人生や暮らしの中に埋め込まれた狂気や異質性に出会うことが面白くて仕方がないようです。『東京タワー』は生まれるべくして生まれたのだと改めて思いました。
『東京タワー』のテレビドラマ化の予定は多くの方がご存じかと思いますが、映画化の構想も着々と進行しており、近々制作発表が行われる予定だそうです。「強い本」が「強い映画」に生まれかわって、多くの人々を動かす日ももうすぐです。

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