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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年06月06日

「映画の力を信じる」 李鳳宇さん

李鳳宇さんプロデュースで昨年度の映画賞を総ナメした『パッチギ!』(井筒和幸監督)の中に、京都朝鮮高校の生徒と修学旅行高校生の乱闘場面があります。そのクライマックスは、相手高校生が逃げ込んだ観光バスを朝鮮高校生が集団でひっくり返すというシーンです。映画パンフレット掲載の井筒-李対談によれば、あのシーンは、李鳳宇さんの実体験に基づいているとあります。そんなこともあって「いったいどんな人だろうか」と興味津々で李鳳宇さんの来場を待ちました。
実際にお会いした李さんは、どうみてもバスをひっくり返すとは思えない爽やかな印象の紳士で、ご友人であり夕学にもご登壇いただいた姜尚中さんによく似た雰囲気のスマートな方でした。


李鳳宇さんによれば、劇場公開映画の95%は惨憺たる負け組で、成功する確率はごくわずか。しかも競争状況は益々悪くなっているのが現実だそうです。残り5%の映画が「良い映画」とされていますが、実態はテレビとのタイアップ等により興業側が巧みに作り上げだ数字で、映画の中身が伴うとは限らないとのこと。だからこそ「良い映画」ではなく「強い映画」にこだわりたい、というのが李鳳宇さんの主張でした。
李鳳宇さんは、「強い映画」を次のように定義しています。
1.制作側の技術力が優れている(脚本、撮影技術、演技力など)
2.時代を経て、繰り返し観られている(「ローマの休日」のような名作)
3.人を動かす力がある(映画をきっかけに、ブームや社会現象が起きる 人生を変える 社会の仕組みを変える等々)
よく、一冊の本、一曲のレコード、一本の映画が人生を変えることがあると言われますが、そういった影響力を持った映画こそが「強い映画」だということです。講演の中でお見せいただいたこれまでの配給・プロデュース作品には、いずれも観る者をハッとさせる着想と大胆にタブーに切り込んでいく鋭さがありました。
少年時代から映画好きだった李さんは、パリ留学中人生に惑い、有り余る時間の中でどっぷりと映画漬けの生活を送ったそうです。世界中の映画を観てはノートに感想や批評を書き込み、自作の映画手帳を作りました。帰国時にそれが7冊にもなったそうです。ノートの余白を埋めることで、豊かな感性を磨き、眼力を養い、そして何よりも「映画の持つ力」を知ったことが映画人としての原点だそうです。
自作の映画ノートを唯一の土産に帰国した李さんは、徒手空虚のまま映画ビジネスの世界に飛び込み、独力で今日の地位を築きました。講演では、創業時から今日までサクセスストーリーを飄々とお話されましたが、ここにいたるまでの苦労は想像に難くありません。
その原動力になったのが、先述の「強い映画」への思いだったようです。
また、思いの強さだけでは、ビジネスとして継続できないことも強調されていました。会場からの質問を受けて、「映画はいかに“引き分け”を多くできるかです」とおっしゃいました。「強い映画」で興業も大成功ということはそうそうありえません。かといって失敗続きでは長続きしません。もう一度やってみよう、やらせてみようと思える“引き分け”作品をどれだけ実現できるかが「強い映画」を作り続けるポイントだそうです。
ビジネスの世界にもあてはまる指摘だと痛感しました。

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