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夕学レポート

2008年05月13日

藤巻 幸夫「自分ブランド直伝〜ここが奥義〜」

藤巻幸夫 株式会社フジマキ・ジャパン 代表取締役副社長 >>講師紹介
講演日時:2008年4月22日(火) PM6:30-PM8:30

藤巻幸夫氏は、伊勢丹の‘カリスマバイヤー’として知られ、後に「福助」の社長に就任して同社の再建に成功された方です。
現在、‘伝説のトレーダー’と呼ばれた兄、藤巻健史氏が設立したフジマキ・ジャパンに参画し、時代を読む優れたセンスを武器に様々な分野で活躍されています。
今回は、福助社長時代の2004年6月に登壇されて以来、4年ぶり2回目のご講演です。
タイトルにあるように、「自分」という個人をブランドとして高めるための「奥義」を情熱的に語っていただきました。
まず、講演冒頭に話された新入社員時代のエピソードをご紹介しておきたいと思います。
後に‘カリスマバイヤー’と呼ばれるようになる藤巻氏の原点と言える話です。
藤巻氏の伊勢丹でのキャリアのスタートは、婦人服のバーゲン売り場からでした。文字通り、売れ残りの商品の値段を下げて売る場所なのですが、
キュロットスカートの「キュロット」を「キャロット」(にんじん)と思い込んでいたり、カシミアとアクリルの違いもわからないほど、女性向けファッションには疎かった藤巻氏にとって、当初は大変苦労された仕事だったそうです。


さて、梅雨に入ろうかという6月のある日、藤巻氏は、売り場にあったベージュのジャケットがなぜ売れないのか、女性客に率直に聞いてみたことがありました。その客によれば、そのジャケットが売れないのは当然でした。なぜなら、ベージュの色が暗めの色合いだったからです。「これから夏になるというのに、こんな曇り空みたいな服は着たくない」と女性は藤巻氏に言ったのです。
この女性の言葉を聞いて藤巻氏は、ちょっとした色の違いが女性の購買心理に影響を与えることに気づきます。以来、藤巻氏は毎日、なぜ商品が売れたのか、逆になぜ売れなかったのかの原因をお客さんの言葉などから分析して記録することを続けたそうです。
その結果藤巻氏は、ファッション商品を評価する基準には以下の8つがあり、お客さんはこれらを瞬時に判断して購買するかどうかを決めていると結論づけました。
「色・柄」「素材」「デザイン」「時代性(流行、トレンド)」「機能性」「用途」「サイズ」「価格」がその8つの基準です。
このような何らかの基準に基づいて商品を仕入れ・開発することを「マーチャンダイジング」(商品計画)と呼ぶそうですが、藤巻氏はバーゲン売り場での経験を通じて、上記評価基準のうちどの点を改善すれば売れるようになるのかを学んでいきました。こうして、売れる商品を見極める能力を高めたことが、後に藤巻氏がバイヤーとして成功することにつながったのでしょう。
あわせて売り場では、商品の色を考慮してうまく並べたり、高い場所に飾るなど、「見せ方」を工夫することでも売れ行きが変わることを藤巻氏は学びました。
これは、「ビジュアル・マーチャンダイジング」(VMD)と呼ぶそうです。商品をどう見せるかという「表現力」が問われる仕事です。
さらにまた、藤巻氏は当時、朝のテレビ番組の生放送中にゲリラ的に登場し、伊勢丹でのバーゲンセールの宣伝を無理やり行ったことがあるそうです。
その反響は大きく、それまで1日当たりの売上げは30-45万円だったのに、テレビに出た日の売上げはなんと300万円以上。「広告宣伝」の効果の大きさを身をもって体験したそうです。
この経験は、後に福助社長となった際に活かされました。福助の再建物語はテレビを始めとするマスメディアで頻繁に取り上げられましたが、あれは藤巻氏が仕掛けていったものだそうです。広告費を払ってテレビに登場すれば億の金がかかるところを取材の形で取り上げてもらうことで費用をかけず、福助のブランドイメージ向上や新商品の宣伝につなげたのです。
藤巻氏は、伊勢丹時代、人との付き合い方のコツも身につけました。売り場で一緒に働いていた女性(藤巻氏曰く「おばちゃんたち」)に、藤巻氏が夕方、おいしいお菓子やお茶を出すと、それまで「腰が痛い」などと言っていた彼女たちがとたんに元気になって走り出す。つまり、藤巻氏は、他人と良好な関係を形成する、あるいは人のやる気を引き出すには何が大切かをこうして学んだのです。
藤巻氏の携帯電話には約1,000人の連絡先が登録されており、頻繁に連絡を取り合っているそうです。藤巻氏が、人とのつながりをとても大切にされていることは有名ですが、そのあらわれとして、最近、ある会社に対する数千万円の投資を仲間に電話をかけて依頼したところ、その仲間は2秒で即決してくれたというエピソードもご披露いただきました。
さて、藤巻氏は、伊勢丹時代に学んだ以上のような点が、そのまま「自分ブランド」形成の奥義にも通じると考えています。「ブランド」とは結局のところ、
人が自分をどう認識するかということであり、
・マーチャンダイジング
・ビジュアルマーチャンダイジング
・広告・宣伝
・人との関係性(より良い関係のための働きかけ)
の4つのポイントに留意する必要があるのだそうです。
ただし、あくまでこれはブランドづくりの方法論に過ぎません。
それ以前に、大事にすべき「精神」があります。藤巻氏はそれを「八本主義」と呼んでいます。具体的には、次の8つの言葉です。
1 本質
2 本音
3 本心
4 本流
5 本筋
6 本当
7 本物
8 本気
藤巻氏は、様々なものごとや言動が、上記8つの言葉に当てはまるかどうかが重要であると考えているのです。八本主義が該当する「中身」が自分に備わっていなければ、見かけを良くみせるだけ、他人によく思われるだけの表面的なテクニックでは「自分ブランド」形成はうまくいかないということでしょう。
藤巻氏のお話は、脱線も多く、またその部分も大変面白いのですが、レポートでは講演テーマに即した内容のみをご紹介させていただきました。
「自分」をブランドとして高めることにより人を動かす力をもつことを、まさに体現されている藤巻氏から直伝をうけた貴重な2時間だったと思います。
*前回のご講演受講生レポート
2004年6月2日(水)
老舗ブランド再興に懸ける想い

主要図書
自分ブランドの教科書』インデックス・コミュニケーションズ、2007年
フジマキに聞け!』(共著)、朝日新聞社、2007年
人脈の教科書』インデックス・コミュニケーションズ、2007年
チームリーダーの教科書 』インデックス・コミュニケーションズ、2005年

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