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島田 亨/二宮清純「プロ野球ビジネスにおけるブランディングコンセプトとマーケティングの実際」

2009年03月10日

島田 亨 株式会社楽天野球団 代表取締役社長 オーナー >>講師紹介
二宮清純 スポーツジャーナリスト >>講師紹介
講演日時:2008年12月19日(金) PM6:30-PM8:30

今回の講演では、最初の1時間が島田氏による楽天野球団のブランディング(ブランド構築)への取り組みについてのお話、その後は、二宮氏を壇上にお迎えしての対談というスタイルで行われました。当レポートは、前半の島田氏のお話に絞ってまとめています。
2004年10月、旧知の仲だった楽天の三木谷社長から島田氏の携帯電話に次のような電話がかかってきました。
「島田さん、久しぶりですね。ところで、野球やりませんか?」
まるで来週の日曜日の草野球の試合に誘うかのような唐突な電話はもちろん、島田氏に楽天野球団の経営をみてもらえないかという話です。当時、個人投資家としてさまざまな事業の立ち上げを支援していた島田氏は2週間ほど熟考した上で、引き受けることにしたそうです。
こうして12月、楽天野球団代表に就任した島田氏が打ち出した「ブランディング」のコンセプトは、次の3点でした。


1 地元からの支持
2 全国知名度の拡大
3 チームの強化
ブランディングにおいてまず大事なのは、1番目の「地元からの支持」であるというのが島田氏の基本的な考えです。これは、3番目の「チームの強化」に関係しますが、お金で人気選手を引っ張り短期的に戦力を増強しても、一過性のブームに終わってしまいがちです。むしろ、若手をじっくり育成し、時間をかけてチームが強くなっていく過程をファンの人たちに共有してもらうことを目指しているそうです。
こうすれば、特定の人気選手に依存することなく、球団自体を愛し、応援してくれる地元ファンを生み出すことができると島田氏は考えています。そのため優勝までに10年かかってもいいと思うほど、島田氏は地元からの支持に最も力を入れました。
島田氏が初年度にまず着手したのは、旧宮城球場(現在は「クリネックススタジアム宮城」)の改修でした。改修に当たっての目標は、「非日常」を感じさせる日本一の球場にすること。そのため、従来の「スポーツ興行」ではなく、「ベースボールエンタテイメント」というコンセプトを打ち出しました。
野球の試合はおおむね3時間以上かかります。娯楽スポーツとしては試合時間が長すぎるという批判が以前からありますが、よほど大きなルール変更でもしない限り時間短縮には限界があります。
そこで、発想を転換し、野球を軸として、丸一日楽しんでもらえるコンテンツのある場へと、野球場を生まれ変わらせることにしたのです。ターゲット層も、一部の男性ファンから「ファミリー」へと拡大しました。家族みんなで来てもらえる場づくりを念頭において改修を進めたそうです。
野球場をディズニーランドのような楽しさあふれる非日常空間に変える(米国では「ボールパーク」と言います)ことで、来場者にその場を楽しんでもらう。極端に言えば、試合には負けてしまったとしても、「楽しかったね!」と帰り際に言ってくれるような野球場にしたかったのだそうです。
野球場の初年度の改修費は30億円でした。工期は3カ月という突貫工事でした。その時はようやくプロ野球の試合が開催できる水準に達しただけでしたので、その翌年度も改修費に40億円の予算を取り、さまざまな点でお客様の満足度が高まるように改善を行いました。例えば、重低音の迫力がより味わえるように音響設備を充実させたり、女性が来場しやすいよう、託児所、授乳室を設置、トイレも新設・増設しました。
また、選手たちの利用環境改善にも着手しています。ベンチ内のシートを従来の冷たいプラスチック製のものから、高級車に採用されている「レカロ」(RECARO)のシートに変えたほか、ロッカールームは、選手たちが誇りを持てるような大リーグ並みのものに改装しました。
また、野球場の外には、正面広場、プレイヤーズエリア、カラスの穴、こどもの国、犬鷲の森など性格の異なるゾーンを展開し、野球の試合がない時でも来て楽しんでもらえるコンテンツを提供しています。実際、夏休み期間中、試合のない朝や夜に各種イベントを行う「朝スタ」「夜スタ」等を開催し、好評を博したそうです。
マスコットキャラクターについてもひとひねりして、クラッチ、クッチーナに加えて、非公認キャラクターという位置づけで「カラスコ」(自分ではイヌワシのつもりのカラス)という道化役的なキャラクターを生み出しました。従来は男の子と女の子といった2つのキャラクターが多かったそうですが、楽天野球団の場合、3つのキャラクターを活用することで話題性の高いストーリーやイベントを展開できるのだそうです。
さらに、地元の支持を得るために、楽天野球団では、球場内でのコミュニケーションだけでなく、球場の外での直接的なコミュニケーションやふれあいも積極的に行っています。しかも、ターゲットによってそのアプローチの仕方を変えています。
企業向けには代表の島田氏が自ら講演会を行っています。中学・高校生には、ゼネラルマネージャーのマーティ・キナート氏が「マーティ塾」を開催しています。メインターゲットの小学生には選手が学校訪問、幼稚園児には前述したキャラクターが訪問するといったように、それぞれのターゲットに適したコミュニケーションを採用しているのだそうです。
楽天OBによる野球塾も今年は64回開催し、試合開始前の国歌斉唱は、毎回地元の方を招いて歌ってもらっているそうです。また、小学生を対象とした観戦感想文コンクールは、昨年は 5447通だったのが今年は7672通へと増加。これは仙台近辺に住む小学生のおよそ10人に1人が試合を見て感想文を出してくれた計算になるそうです。
加えて、宮城県以外の東北各県からも支持を得るための興味深い取り組みを島田氏は次々と紹介してくれました。例えば、東北各県の地方球場に、楽天イーグルスの名称(例えば岩手県の「楽天イーグルス岩泉球場」など)を冠してもらうことによって、楽天側は東北エリアでの知名度向上に役立つ一方、その球場を使った野球教室を優先的に組むことで、その地方のためにも役立つというWIN-WINの関係形成も行っています。
現在、楽天イーグルスの名前を冠した地方球場は東北に6ヵ所できているそうです。また、クリネックススタジアム宮城の試合開催時には毎回40-70名のボランティアスタッフに手伝ってもらっており、地域住民の方々に「自分たちが支えている」という意識を生み出すことに役立っているようです。
以上のような取り組みの結果、地元からの支持を得ることついて相応の成果が上がっています。観客動員数が順調に伸びていることがそのひとつ。今年度は初めて110万人を突破しました。また、仙台地区でのテレビ中継は、デーゲームで視聴率15%程度、ナイターでは20%程度を記録し、同一時間帯の番組中トップの視聴率を獲得する日があるほどの人気番組になっています。
次に、ブランディングコンセプトの2番目、全国的知名度の向上については、野村監督の高い人気を活用しているそうです。いわゆる「ノムさん効果」です。また、田中将大選手を初め、選手たちのコマーシャルへの出演やプロモーション活動等は、外部のエージェントに任せず球団自らマネジメントを行っています。こうすることによって、選手を通じた全国的なPRを効果的に行うことが可能なのだそうです。
島田氏によれば、直近の「好きな野球団」のアンケート調査を見ると、全国レベルで楽天は、巨人、阪神、中日に次いで4位に来ています。関東京浜地区だけでみると、巨人、阪神に次いで3位につけており、全国的な知名度も短期間で向上できていることがわかります。
そして、ブランディングコンセプトの3番目、「チームの強化」については、前述したように「若い人を育てる」というのが基本方針です。現在の主軸選手の多くはまだ20代です。とはいえ、やはり勝てなければ人気も高まりません。
そこで、楽天野球団では、データ分析を活用した科学的な指標を用いて、できるだけ多くの勝利につながるような指導、指示を行っているそうです。例えば、投手の場合、先頭打者を出すか出さないかで勝率が大きく変わることがわかっています。ですから、なによりも先頭打者を抑えることを重視するように投手には指示するといったことを行っているそうです。
島田氏は最後に次のような楽天野球団の理念を示して講演をしめくくりました。
The Baseball Entertainment Company
~私たちは、野球を通じて感動を創り、夢を与える集団である~

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