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夕学レポート

2009年07月14日

五味一男「メガヒット理論~高確率でヒット商品を生み出す企画術~」

五味一男 日本テレビ放送網株式会社 上席執行役員 >>講師紹介
講演日時:2009年4月22日(金) PM6:30-PM8:30

テレビ業界で「視聴率男」「生涯打率NO.1」と呼ばれる五味一男氏。
五味氏の提唱する、ヒット企画を創り出す「五味理論」は、ちょっと聞いただけでは、ごく当たり前のことを説いているような印象を受ける方が多いそうです。
しかし、この理論の本質を理解し、実践することは簡単ではありません。
そのような前置きを踏まえつつ、五味氏はご自身の経験や過去の例を用いてわかりやすくお話しされました。
五味氏は、ヒットを「ファッションヒット」と「スタンダードヒット」の2つに分類しています。ファッションヒットとは、一発屋と呼ばれるタレントや季節の流行商品といった、一過性のヒットのことです。たまたま、その時の消費者の気分やトレンドに合致したので売れただけという偶然の産物が多いのです。したがって、なぜ売れたのかという理由を後づけでは説明できますが、「理論」とは呼べませんし、再現性もありません。


それに対しスタンダードヒットは、たとえば「カラオケ」「コンビニ」「ユニクロ」のように、長期間にわたって消費者に支持されるヒットです。五味理論は、もちろんスタンダードヒットを狙うための考え方です。
五味理論に沿って理詰めで考えることで、ヒットを狙うことができ、学習を重ねることによって、ヒット確率を高めることができるといいます。またそれを再現することもできます。
では、どんな学習を続けなければならないのでしょうか。
五味理論を実践する上で最も難しい学習は、「お客さんの立場で考える」ということだそうです。
これと似た言葉で、「お客さんのために」という視点で考えることがあります。しかし、この発想では、なかなかヒットは生まれません。なぜならば、作り手の主観による「親切の押し付け」が多いからです。
「お客さんのために」と言いながら、現実には誰も欲しがらないような製品を開発したり、あれもこれもと機能を増やし過ぎて、かえって利便性を低下させてしまった例は山ほどあります。
五味氏は、「お客さんの立場で考える」難しさを説明するのに、テレビ電話という製品を例に挙げました。
テレビ電話を開発した人たちは当然、お互いの顔を見ながら話せるテレビ電話にはニーズがある、売れると信じて製品化を行いました。しかし現在、残念ながらテレビ電話は広く普及しているとは言えません。
なぜ普及していないのか。開発者ではない、お客さんの立場で考えれば理由は明白です。たとえば女性なら、スッピンの顔や、部屋の中、だらしない格好を見られるのは恥ずかしいことでしょう。だからテレビ電話は困る。これが消費者の一般的な感覚だと思います。
ところが、製品を開発する立場に立つと、お客さんの立場で考えることはとても苦しい作業になるのです。なぜなら、人は、自分肯定におちいりやすく、「お客さんのため」と称して自分のやりたいことや、表現したいことをついつい優先してしまいがちだからです。五味氏は、「お客さんの立場で考える」には自分否定がなくてはならないといいます。自分だけの思い入れは必要ないということです。
そこで、五味氏は「五味理論の実践」を以下のように定義しています。
「自分がやりたいことを優先するのではなく、人々が潜在的かつ普遍的に求めているものを、彼らの代弁者となり、見つけ出し、提供する」
潜在的に求めているもの(=潜在ニーズ)を見つけ出すということは、「先取りする」ということです。
そしてお客さんの立場になって考えるのが「代弁者」になることです。顧客の漠然とした「思い」や「不満」を読み取り、それらを充たす、あるいは解決する具体案を企画すれば、高確率でヒットが生み出せます。
既存のヒットの要因を分析することも必要ではあります。しかし、しょせん後付けに過ぎません。後付けからは、新しいヒットはなかなか生まれないのです。また、クリエイターなど一個人のセンスや感性にだけ頼った企画からも、なかなかヒットは生まれません。もし、たまたまヒットしたとしても、前述したファッションヒットにとどまり、スタンダードヒットになることはないのです。
そしてさらに、「メガ」ヒットを生み出すためには、「普遍的に」求められているものを見つけ出さなければなりません。
ごく限られた少数の顧客ではなく、大多数が共有する感情を読み取ること。これがメガヒットを生み出すポイントなのだそうです。
数々の人気テレビ番組を生み出してきた五味氏の場合、自分の中に1,000万人以上の人が持っている普遍的な感情というものをイメージするそうです。 1,000万人というのは、テレビ視聴率では13~14%程度であり、これを超えれば番組が存続されるというボーダーラインです。ですので、業界や商品によって、イメージすべき人数は異なってきます。例えばある雑誌が、50万部以上売れることが成功の最低ラインであれば、普遍的な感情を共有する顧客の数は 50万人以上となります。
さらに、顧客の代弁者となって先取りした潜在ニーズは、「人間の本能に根ざした最大公約数的な欲求」でなければならないと考えています。そうした結果、実際にヒットしやすいのは、「ありそうでなかったコンセプト」なのだそうです。このコンセプトに沿った企画や商品は、必ずしも革新的な発明品ではありません。それどころか、一見するとシンプルでわかりやすいものが多くを占めます。
しかし、見逃されていた潜在ニーズをシンプルに、わかりやすく提供することで、ヒットに結びつく確率が高くなります。
逆に、ヒットになりにくいのが、「なさそうでなかったコンセプト」です。斬新なので一見よさそうに見えます。しかし、そもそもニーズ自体が存在しないことが多く、結局ヒットしません。この「なさそうでなかったコンセプト」は、企画マンがやりがちなコンセプトなのだそうです。
また、「ありそうであったコンセプト」は、しょせん二番煎じ。ニーズはありますが、競合が既に存在していますから、やはりヒットにはなりにくいのです。
そして、潜在ニーズをおさえたコンセプトを具体的な企画化・製品化につなげるために重要なことがあります。それは、「100の自分」と「200の自分」を頭の中に共存させ、常に対話させることだそうです。
‘100’ と‘200’はIQ(知能指数)に近いイメージですが、喩えとして「100の自分」は、多数の顧客の最大公約数の意識になりきっている自分のこと。つまり、普遍的な感情を持っている自分です。これを育成することは難しいけれども、持っている人はメガヒットを連続して出すことができるそうです。
一方、「200の自分」は、作り手として、100の自分が持つ潜在ニーズを充足するためにどんな企画・製品に落とし込むかを冷静に、理詰めに考える自分です。
両者の対話から合致したものが企画化・製品化につながります。
この対話がなければ、先に示した定義にある、“人々が潜在的、かつ普遍的に求めているものを、彼らの代弁者となり、見つけ出し、提供する”ということが実現できないのです。
五味氏によれば、100、200の自分と共にある種のトレーニングにより、コツをつかめば誰にでもできるようになるそうです。
例えば、100の自分という「最大公約数的な意識になりきる」ため、言い換えると「自分の中にマス(大衆)を住まわせる」ためのトレーニングとして以下の4つのポイントを示してくれました。

  1. 友人・知人を多くし、さまざまな人と付き合う。
  2. 経済動向、各種ランキング、新聞雑誌、ネット情報、街の変化をチェックし時代の流れを皮膚感覚で認識する癖をつける。
  3. 食わず嫌いにならず、振り幅を拡げる。
  4. お客さんの顔色を徹底的、かつ詳細にうかがう。

「4」は、言葉では教えてくれない顧客の行動を注意深く、観察することです。たとえば飲食店では、顧客が注文した料理のうちどれが残されたかを見ることで、顧客の料理に対する評価を知ることができます。
また、五味氏は、「好奇心」を発揮することの大切さについても話されました。
強い好奇心を持っていれば、自分の周囲の変化に敏感に気づきやすくなります。また、そうした変化の原因・背景を知ろうと、深く考えることが自然とできるようになっていきます。
「自分がやりたいことを優先するのではなく、人々が潜在的かつ普遍的に求めているものを、彼らの代弁者となり、見つけ出し、提供する」
それは発明することでも、行き当たりばったりでもなく、一連の作業のなかで到達すると五味氏は言い切ります。
改めて、ヒットを生み出すには、日常生活に根ざした地道なトレーニングが必要だということがわかりました。

主要著書
ヒット率99%の超理論』PHP研究所、2007年
「視聴率男」の発想術』宝島社、2005年

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