KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2010年07月13日

小林 弘人「新世紀メディア論~オープン出版宣言、21世紀の出版と新しいメディアビジネス~」

小林 弘人 株式会社インフォバーン 代表取締役 CEO  >>講師紹介
講演日時:2010年5月14日(金) PM6:30-PM8:30

小林氏は出版社で書籍編集を経験した後、1994年に雑誌「ワイアード」日本版の立ち上げに参画、1998年まで同誌編集長を務めました。1994年当時、日本のインターネット利用人口はわずか38,000人だったそうですが、いまやインターネットの浸透を通じた新たな情報形態の出現、多様なメディアの台頭により、出版のあり方も大きく変わってきています。
現代は、「誰でもメディア」時代です。従来のマスメディアだけでなく、 Webサイトやブログを運営する企業も個人も、すべて「メディア」としてみなすことができます。たとえば、前田建設という会社のWebサイトにはファンタジー営業部というコンテンツがあります。これは、「マジンガーZ」の格納庫や「銀河鉄道999」の高架橋といった、アニメやゲームに登場する架空の構造物を実際に建設したらどんな技術が必要か、また費用や工期はどのくらいになるのか、といったことを真剣に検討しているWebサイトです。
このサイトは、アニメファンはもちろん、多くの人たちの関心を集め、書籍の出版にまで至っています。人々は、ファンタジー事業部を通じて、前田建設の技術力や社史などを理解し、夢のある楽しいコンテンツを提供できる会社として好感度もおおいにアップしたのです。


また、「カゼに吹かれて波乗りジョニー」といったユニークな名称の豆腐で知られる「男前豆腐店」のWebサイトも、楽しさと遊び心あふれるデザインやコンテンツで、同店独自のイメージを消費者に直接伝えています。企業は、もはやマスメディアだけでなく、自社サイトをメディアとして活用しているのです。
小林氏は、情報を伝えるメディアには、3つのタイプがあることを紹介します。
一つが従来のマスメディア(テレビ、雑誌、新聞、ラジオ、屋外広告など)です。人々に話題のネタを提供するという意味で「マスフィード(mass feed)」と呼んでいます。
次に、このマスフィードで得た情報を、さまざまな人が自分のブログやツイッターなどで話題にします。個人単位での情報伝達が行われることから「マイクロフィード(micro feed)」と呼びます。マイクロフィードの中には、一個人ながらたくさんの閲覧者を有する人もいて、彼らは、インフルエンサー(影響を与える人)と呼ばれ、従来「オピニオンリーダー」と言われていた人もここに含まれます。
最後が「ミドルメディア」です。マスフィードとマイクロフィードの中間的な存在で、おおむねマイクロフィード上の話題を、特定の商品カテゴリーや同じテーマで集約したものです。小林氏によれば、現在、マイクロフィードと補完関係にあるこの「ミドルメディア」を通じて、情報の認知が広がる傾向が大きくなりつつあるそうです。
検索エンジンでキーワードを検索したとき、知りたい情報以外の無関係のコンテンツがたくさん表示されます。そのため、多くの人は、必要な情報を探すのに苦労するものです。
しかし、ミドルメディアは、知りたい商品やテーマに関連した、つまり情報が絞り込まれたサイトの記事だけを集めているので、必要な情報を見つけやすくなります。
ミドルメディアには、有人と無人のものが存在します。有人のものとしては、さまざまなテーマについて、ガイドと呼ばれる専門家たちが、関連記事を集め、自らも関連記事を執筆する「オールアバウト(All about)」や、各種商品の価格や仕様を比較検討できる「価格コム」、個人の旅行記を集めた「フォートラベル」、個人単位での飲食店の評価を集めた「食べログ」、このほかにもプログラムが自動的に情報収集を行う無人のものなど、小林氏が「ハブ(Hub)メディア」と呼ぶサイトも含まれます。こうしたミドルメディアは小資本、個人単位でも開設可能でありながら、大資本、大組織が保有するマスメディアと同等、あるいはそれ以上の情報伝達力を有するようになってきています。というのも、検索エンジンは、情報の発信者が大組織か個人かといった資本力や過去の名声を差別せずに扱うからです。
小林氏は、しかしながら出版関係者は上記のような実態をまだまだ実感していないと言います。情報には、従来、インターネットのような電子媒体が取り扱うのに向く「フロー情報」と、専門書に代表される、体系化された内容を扱うのに向く「ストック情報」の2種類がありました。今は、第3の情報、検索エンジンが生み出した「エコー情報」が増えているのです。
エコー情報とは、文字通り「こだま」のようなもので、あちこちのサイトからコンテンツを集めて、独自に価値をもとうとしています。得てして検索エンジン対策に優れていることが特徴です。それらは、必ずしも自分たちでコンテンツを作るのではなく、ユーザーの記事を集めたり、ユーザーに入力してもらった情報をコンテンツ化し、広告媒体などで収益を上げています。
このように、インターネットの登場により、情報を媒介する各種メディアの役割が変わってきたことを出版関係者は十分に認識していない、と小林氏は考えています。
小林氏によれば、現在のメディアがもつ資産は、電子媒体か紙かという形状そのものにはなく、メディアが擁するコミュニティにあるのだそうです。なぜなら、データでも紙でもコンテンツはコピー可能ですが、そのメディアに集まる利用者のコミュニティはコピーできないからです。コミュニティを形成できるブランドこそが現代のメディアビジネスであり、コミュニティはメディアの資産となり、収益の源泉となるのです。
小林氏は次代のメディアへの提言として、出版は出版社だけが行うものではないこと、また出版とは本を印刷し、書店に並べることだけを指すのではないこと、そして新しい出版の収益を上げる方法=換金方法は多様である、といった新しい出版の考え方「オープン出版」時代の到来を宣言し、講演を締めくくりました。

メルマガ
登録

メルマガ
登録