私をつくった一冊
2021年09月14日
樋口 しのぶ(慶應MCC客員コンサルタント)
慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。
1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください
2.どのような内容ですか?
日本人の道徳や価値観の源を欧米に紹介するために、1889年(明治32年)に書かれました。新渡戸が本書を書こうと考えたきっかけは、新渡戸がベルギー人の法学教授に、日本には宗教教育がないという話をしたとき、この教授に「日本ではどのようにして道徳教育を行うのか」と問われたことによります。また、アメリカ人であった新渡戸の妻からも、日本の思想や風習について説明を求められることも多く、自分の善悪の感じ方や行いを改めてふりかえったとき、新渡戸はその思想の源は武士道にあるのではないかという考えに行き着きました。本書は、日本人の道徳観念を支えている武士道というものについて、欧米の歴史や文化と対比もさせながら紹介したものです。
3.その本には、いつ、どのように出会いましたか?
大学2年生の5月、ゴールデンウイーク前に大学の図書館で借りたのが出会いです。私が通っていた大学の学部では大学2年になるとゼミに所属することになりますが、所属したゼミの教授が講義の中でこちらの書籍を取り上げ、興味を持って借りることにしました。借りたものの、数ページ読んだ段階で「これはじっくり読まないと入ってこない」と感じ、改めて購入したのを覚えています。
4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?
もともと日本史と日本文化に興味関心が高かった私にとって、まずこのシンプルなタイトル(武士道)が非常に魅力的に感じたことを覚えています。「武士の道ってどんな道なんだろう」という興味本位で読み始めた大学生の自分にとって、当初内容は難解でした。「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」など、武士の基本的な価値観、道徳観が書かれていますが、何度か読み返すうちにそれらが私自身のアイデンティティにも繋がっているように感じ始め、また私のみならず日本人のそれに繋がっていると考えるようになりました。この本を手にした当時、私は大学2年でキャリア理論の中では青年期にあたるわけですが、個の確立・自身の軸を見つけるという点において非常に支えになってくれた書籍でした。
また、30代に入り企業で管理職として部下のマネジメントを任される立場になった際にも書籍内の「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」が支えとなりました。私が所属していた組織は当時、女性管理職は私を含め数名しかおらず、マネジメントを学ぶ環境も整っていない状況。そのような時、再度この書籍を手に取るとマネジメントやリーダーシップの要諦が書かれていると感じたのです。「義」=正しさ、「仁」=思いやり、「礼」=リスペクト など、この書籍から自身の言動を振り返り襟を正さなくてはと何度となく思ったものです。そして、マネジメントやリーダーシップについてお伝えする立場になった今もなお、度々読み返すようにしています。
5.この本をおすすめするとしたら?
私自身がそうであったようにキャリア形成の分岐点で立ち止まっている方や、組織の管理職・リーダーとしてメンバーをマネジメントされている方(もしくは、される予定の方)に一度手に取って頂けるといいのではないでしょうか。昨今はハラスメント問題やコミュニケーションに課題を感じている組織も多いと思います。多数あるビジネス書も非常に役にたつ書籍ばかりですが、ハウツーではないより深い精神性を感じ取っていただけるように思います。
- 樋口 しのぶ(ひぐち・しのぶ)
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- 慶應MCC客員コンサルタント
- 山梨県立大学キャリアサポートセンター客員コンサルタント
- HRDサポート代表
- 農業法人株式会社サラダボウル社外取締役
- 慶應MCC担当プログラム
- 学習院大学文学部卒。食品メーカーの人事部に所属し、人材育成部門の責任者として新入社員から管理職、役員候補までの社員教育・人材育成を担う。2013年より山梨労働局にて労務管理に関する各種相談対応を行う労働相談員を務める傍ら、HRDサポート代表として民間企業・行政機関問わず、組織での「人」に関するさまざまな課題に対してのコンサルティング、サポート業務を行っている。
山梨労働局・甲府市役所 労働相談員、山梨産業保健総合支援センター メンタルヘルス対策促進員、公益財団法人介護労働安定センター 人材育成コンサルタント。2023年3月までUTYテレビ山梨「スゴろく」火曜日コメンテーターを務め、現在は山梨日日新聞の経済欄コラム『樋口しのぶの人事部Lab』を執筆している。
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