KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

私をつくった一冊

2022年12月26日

中原 淳(立教大学経営学部教授)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

中原 淳

中原 淳(なかはら・じゅん)
  • 立教大学経営学部教授

慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください

How we think
John Dewey
Digireads.Com
2007年1月

わたしに深い影響をあたえた本のひとつに、1900年代に活躍した哲学者のジョン・デューイの「How we think」というものがあります。デューイは、20世紀にもっとも活躍した哲学者のひとりであり、その思想は多岐にわたります。哲学界だけでなく、その影響力は教育業界はもちろんのこと、人材開発や組織開発にも多大な影響をあたえた偉人です。今回は、ここでは焦点をしぼってご紹介します。

実は、先ほどの本、その冒頭に、こんな言葉があります。

「教えること」や「学ぶこと」は、「売ること」と「買うこと」に似ている。
「誰も学んでいない」のに「わたしは教えた!」と言うのなら、「誰も買っていない」のに「売った!」というのと同じだ。
 
Teaching and learning are correlative or corresponding processes, as much so as selling and buying. One might as well say he has sold when no one has bought, as to say that he has taught when no one has learned.

(John Dewey “How we think” p29)

わたしが、この言葉に出会ったのは、学部生のときでした。そのときの衝撃を、今も覚えています。
なぜなら、当時のわたしが受けてきた教育の多くは「誰も学べていないのに、わたしは教えた!」という授業が多かったからです。つまり「お客さんは買っていないのに、(売主は)売ったと言い張る授業」です。

2020年代の今現在では、教育現場も創意工夫を続けていますので、事態は変わってきているとは思いますが、わたしがまだ学生だった頃は、
・先生が90分喋り続ける独演会のような授業
・教科書を板書するだけの一斉講義
・大人数講義室に詰め込まれた300名が90分間、沈黙し続ける授業
などが大変多かったように思います。それらの授業のなかで、当時のわたしは「学べた!」という実感をもつことができずにいました。ただたんに90分の時間が「過ぎること」を待っていました。

こうした読書経験もあり、わたしは「ひとはどのように学べるのか?(How we think)」ということに興味をもちはじめました。それから爾来25年・・・紆余曲折ありながらも、今は企業・組織のなかで、ひとびとがいかに学び、変わるのかということを研究しています。この25年は「ひとがいかに学ぶのか? 変えることができるのか」ということだけを考えた人生でした。
 
小さな書籍の、たったひとつの言葉が、自分の人生を「揺さぶる」こともあります。
一教師として自戒をこめて、この言葉のもつ意味をかみしめています。

この記事をお読みの皆さんが、小さな書籍のなかにある、ハッとする言葉に出会いますように。わたしは願っています。
そして人生はつづく

中原 淳

中原 淳(なかはら・じゅん)
  • 立教大学経営学部教授

慶應MCC担当プログラム

博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等を経て2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。

立教大学経営学部においては、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、リーダーシップ研究所副所長を歴任。研究の詳細はBlog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/

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