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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

私をつくった一冊

2023年11月14日

岩永 智博(プレジール・レター株式会社 代表取締役社長)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

岩永智博

岩永 智博(いわなが・ともひろ)
  • プレジール・レター株式会社 代表取締役社長

慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください

ジョルジュ・バルビエ画集:永遠のエレガンスを求めて
鹿島 茂(著)
六耀社 2008年3月

2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

この本と出会ったのは、<ニジンスキー・プロ>と題し、バレエ・リュス時代に活躍した伝説のダンサー、ニジンスキーの代表的な作品群の上演に関わった、翌年のことでした。バルビエが描いたバレエに、舞台を観た時の自分の感動がそのまま描き出されているような衝撃を受けました。

3.どのような内容ですか?

ジョルジュ・バルビエは20世紀初頭に活躍し、世界恐慌後に幻の如く消えた、イラストレーター、挿絵画家です。フランス文学者 鹿島茂氏によってまとめられた、そのバルビエによるエレガントな世界を一挙に堪能できる画集です。

パリで一大センセーションを巻き起こしたロシア・バレエ団(バレエ・リュス)のスター、ニジンスキーとカルサヴィナを題材にした初期の傑作版画をはじめ、豪華絢爛で精緻を極めた挿絵本、アール・ヌーボーの黄金期を彩ったファッション誌のイラストなどが収められています。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

五感を震わせる素晴らしい実体験こそ、芸術の醍醐味だと、改めて気づかされました。
長年舞台に関わってきましたので、芸術においては本物を直接観る(触れる)ことの大切さや感動の大きさは知ったつもりでいましたが、バルビエの手による美の世界に魅了され、感動を覚えたことで深く実感しました。さらに、もっと知りたい、逢いたいなど探求心も深まることでまた新しい美との縁がつながる…そんな風にして自分なりの美的な世界も広がっていきます。お蔭でバルビエを求めて古書巡りから、版画つながりで浮世絵や新版画まで、知れば知るほど奥の深さを感じる(懐は心もとないですが)この頃です。

5.この作品をおすすめするとしたら?

皆さんが心弾ませながら本を手にしたのは、いつですか?
忙しい現代人は、常に合理性や結果を求める渦の中に身を置いています。一方、ひとり一人に目を向けると、効率や成果を求めるあまり、非効率へのネガティブ思考や過度なプレッシャーや不安に悩む方、あたかも時代に取り残されたような思いや、生きづらさを感じる方も、世代を問わず多いように感じます。

ふと、そんな日常を休んで、自分の「好き」や「興味」に、自分の大切な時間を少しだけ使ってみませんか?好きな世界(ジャンル)に出逢い、そこから想像を巡らせ、機会があれば実際に逢いに行く。一見すると非効率でも、そこに時間を割くことで生まれる理解やご縁が、皆さんに新しい発見や喜びをもたらしてくれるかもしれません。

バルビエが取り上げたテーマは、バレエ・リュス、ジャポニズム、シノワズリ、オリエンタル、ギリシャ趣味、ロココなど多岐にわたります。いずれも洗練され、美しく、その場の空気をも取り込んだようなイラストで、まるでその世界に居合わせたような気分にさせてくれます。バレエ、ファッション、美術、デザイン、歴史…皆さまが興味、関心をお持ちのテーマと合致するイラストが見つかるでしょう。
他人にとっては「非なる、不なる、無なるものでも、必ず魅力や価値がある」。自分なりの「好き」と巡りあうおだやかな時間が、気持ちをリセットし、明日へと向かうポジティブな心も育むと私は信じています。


岩永智博

岩永 智博(いわなが・ともひろ)
  • プレジール・レター株式会社 代表取締役社長

慶應MCC担当プログラム

服飾業界経験の後、2002年より公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)に勤務。世界第一級の海外オペラ、バレエ、オーケストラの招聘、および、東京バレエ団運営に携わる。営業全般の統括の他、助成事業にも従事。これまでに営業部長、制作部長、販売部長等を歴任。全国の劇場のための運営アドバイスや交流支援、コンサルティング等も手掛ける。
2021年10月、プレジール・レター株式会社を設立。OSK日本歌劇団、日本センチュリー交響楽団のアドバイザー/コーディネイターも務めるかたわら、様々な分野の団体やアーティストの活動支援、企画、制作を行う。また、慶應丸の内シティキャンパスagora講師、朝日カルチャーセンター講師、NHK文化センター講師、大分県立芸術文化短期大学講師の他、各種イベントでの講義や司会も務める。
これまでの経験を活かし、舞台芸術のナビゲーターとして、舞台芸術を通じた「たのしみ」「よろこび」という唯一無二の価値ある感動体験の提供と浸透に尽力している。
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