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私をつくった一冊

2024年02月13日

村上 裕太郎(慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール准教授)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

村上裕太郎

村上 裕太郎(むらかみ・ゆうたろう)
  • 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール准教授
  • 税理士

慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください


ゼミナールミクロ経済学入門
岩田 規久男 (著)
日本経済新聞出版社
1993年2月

2.どのような内容ですか?

ミクロ経済学の入門書で、ごく一般的な内容なのですが、とにかく各章に散りばめられているコラムが面白いのです。たとえば、「結婚の機会費用」や「銀座の水割りが高いのは銀座の地代が高いから?」などをミクロ経済学の理論を応用しながら答えていく。需要曲線・供給曲線や限界代替率といった無味乾燥な経済学の理論がどのように現実問題に適用できるのか、経済学の応用可能性の広さに感動を覚えました。近年では、ミクロ経済学の応用に特化した素晴らしい書籍が多数出版されていますが、30年前はほとんどなかったと記憶しています。

3.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

大学1年生の必修授業での指定図書でした。大学入学前は、経営学に興味をもっていて、経済学のような抽象的な学問には苦手意識をもっていました。しかし、本書の序章において経済学ではなぜ非現実的な仮定をおくのかについても丁寧に記述してあり、そこから経済学の魅力にハマっていきました。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

大学1年からミクロ経済学を学び、大学院でマクロ経済学的手法を用いた修士論文および博士論文を執筆しました。大学院で学んだマクロ経済学は、ミクロ的基礎付け(micro foundation)のあるマクロ経済学でした。そう考えると、18歳のときから数えて30年弱、ミクロ経済学を研究し続けていることになります。そのきっかけを作ってくれたのが、まさに本書です。

とくによく覚えているコラムがあり、それが文房具店における店主との会話というものでした。内容は、次回の買い物から割引を受けられるクーポンをもらった客が、「なぜいますぐ割引をしてくれないのか」と店主に問いかけるものだったと記憶しています。何気ない生活の中の一コマですが、クーポンは消費者の価格弾力性を表明させるためのツールだということを学び、目から鱗が落ちました。現在は、自分自身が会計学をミクロ経済学的手法を用いて研究しているわけなので、経済学の応用可能性の広さを自ら体現しているということになります。

5.この作品をおすすめするとしたら?

入門書なので、すべての人におすすめできます。現在では、行動経済学の方が馴染みのある方が多いかもしれません。しかし、人間の非合理性に焦点を当てる行動経済学の出発点は、合理的な個人を前提としたミクロ経済学です。先述したように、最近では経済学を身近な問題に応用した書籍が多数出版されています。ぜひ、より多くの方々に経済学の扉を開いてみてほしいと思います。

村上 裕太郎

村上 裕太郎(むらかみ・ゆうたろう)
  • 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール准教授
  • 税理士

慶應MCC担当プログラム

昭和60年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。(株)本田技研工業を経て、平成5年慶應義塾大学経営学修士(MBA)。Arthur D. Little(Japan)を経て、米国シリコンバレーのMuse Associatesに参画。平成11年オハイオ州立大学経営学Ph.D.を取得。同年、慶應義塾大学大学院経営管理研究科専任講師、平成14年助教授・准教授を経て平成25年10月より現職。
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