KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

私をつくった一冊

2026年07月14日

黒岩 健一郎(青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール) 教授)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。


1.私をつくった一冊をご紹介ください

スタンフォード・インプロバイザー ─ 一歩を踏み出すための実践スキル
パトリシア・ライアン・マドソン(著)、野津 智子(訳)
東洋経済新報社、2011年

2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

2017年のことです。この頃、私は、舞台俳優なのになぜかビジネススクールを修了したという人と知り合いました。その人とお話をしていくうちに、演劇の世界で蓄積された知見がビジネスのさまざまな場面で役立つということを知りました。そこで、演劇に関する書籍をいろいろと手に取っていたのですが、そのなかで偶然に出合ったのがこの本です。(その後、その人とは、演劇の知見をビジネスに活かす教育を提供する会社を共同で設立することになります。)

3.どのような内容ですか?

この本では、スタンフォード大学で長年行われてきた即興演劇(インプロ)の実践知をもとに、変化や不確実性の中で一歩を踏み出すための態度とスキルについて述べています。中心にあるのは、「よいアイデアを生み出そう」と力むよりも、目の前の状況を受け入れ、相手に応答し、まず行動するという姿勢です。失敗を避けることよりも、失敗を素材として次の行動につなげることを重視しています。また、「YES, And」の精神、今ここへの集中、最初の発想を信じること、笑顔や他者への配慮といった具体的な実践を通じて、創造性や協働性は特別な才能ではなく、日常的に鍛えられる力であると述べています。単に演劇技法の解説にとどまらず、ビジネス、教育、対人関係において柔軟に生きるためのヒントがたくさん書かれています。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

それまでの私は、「大学の教員だから、マーケティングの研究者だから、こうあるべきだ」と自分を自分で縛っていたように思います。授業でも他の仕事でも、恥をかきたくないとか、わからないとは言えないとか、そんなことばかり考えながら行動していました。しかし、この本を読んだことで、今ここに集中して素のまま行動してみると、自分を縛っていた鎖から解放されたような感覚になりました。

この本では「何の計画もせず一日を過ごす」ことをやってみようと書かれていますが、一日はちょっと長いので、試しに1時間ほど予定を入れずに表参道を散歩していると、偶然、古い知り合いに2人も会いました。その場で10分近くお話しをしましたが、とても懐かしくかつ楽しかったです。それまでの私だったら、知り合いとすれ違っても気づかなかったかもしれませんし、気づいたとしても次の予定が気になって挨拶だけして別れてしまっていたと思います。

このようなエクササイズをいくつかやってみたら、なんと、仕事も含めて人生が俄然楽しくなりました。

5.この作品をおすすめするとしたら?

あらゆるビジネスパーソンにお勧めしたいのですが、特に今の仕事にマンネリを感じている人や面白みを感じられていない人には今すぐ読んでほしいです。加えて、新しいビジネスを開発しようとしている人や起業しようとしている人は、アントレプレナーとして必須のマインドセットを体得することができます。

ビジネスに役立てようという動機で読んでもらって構いませんが、おそらくビジネスにとどまらず、人生そのものが変わるのではないかと思います。実際、私の人生は変わりました。

黒岩 健一郎

黒岩 健一郎(くろいわ・けんいちろう)
  • 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール) 教授

慶應MCC担当プログラム

早稲田大学理工学部建築学科を卒業。住友商事株式会社にて不動産事業に従事。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA)。同大学院後期博士課程単位取得退学。博士(経営学)。武蔵大学経済学部専任講師、准教授、教授を経て現職。慶應義塾大学ビジネススクール認定ケースメソッド・インストラクター。日本マーケティング学会理事。株式会社トビラボ顧問。
専門はサービス・マーケティング。特に、苦情対応のマネジメント、顧客オーナーシップのマネジメント、サービス・デザイン、市場志向型経営。
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