KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2016年04月12日

一杯のコーヒーで自分探しの旅に出る

ブランド 元スターバックスCEOが教える「自分ブランド」を築く48の心得

岩田松雄; 出版社:アスコム ; 発行年月:2013年7月; 本体価格:1,512円

みなさんはスターバックスをご存知ですか?
「あの緑の看板の…」とすぐに連想される方が多いかと思います。
自宅やオフィス近くの店舗、トッピングたっぷりのドリンク…顔なじみの店員さんが思い浮ぶ方もいらっしゃるかもしれません。

では、スターバックスをいつ知りましたか?
この質問に、明確な答えを持っている方はそう多くはないと思います。私自身、スターバックスに初めて訪れた日もきっかけも思い出せません。確かなことは、スタ-バックスをテレビCMで知ったという人はいないということ。

スターバックスがテレビCMを初めとした大きな宣伝広告を行わないことは、ご存知の方も多いと思います。
では、スターバックスの「ブランド」がどのように生まれ私たちの心に根付いたのか。また、スターバックスブランドを読み解くと見えてくる「自分ブランド」とは何なのか。
そのような興味から岩田松雄氏の『ブランド 元スターバックスCEOが教える「自分ブランド」を築く48の心得』を手に取りました。

使命と情熱

スタ-バックスには「一杯のコーヒーを通して人々に活力を与える」というミッションがあります。
パートナー一人ひとりが愚直にこれを実現しようと努力することで、声高に叫ばずとも、スターバックスの「価値」は多くの人々に自然に浸透していきました。
こうして、他のコーヒーショップとは一線を画す「一流ブランド」になったことで、スターバックスの使命はさらに大きくなり、働き手たちは誇りをもち、より「スターバックスらしさ」を追求していきます。

私たちは何のために働くのか。コーヒーを通じてお客さまに何を提供するのか。スターバックスのパートナー(従業員)達は、ミッションを遠いところに掲げておくのではなく、自分のところに引き寄せて一人ひとりがより「スターバックスらしさ」を追求することでさらにブランドを確立していきました。
つまり明確な「使命」と従業員たちの「情熱」があり、この「使命」と「情熱」が従業員をブランド化し、大きなコーポレートブランドへと成長させていく。スターバックスのブランドは従業員一人ひとりのブランドの集合体なのです。

ブランド人になるレシピ

本書では、ブランド力が高い人(本書では一流ブランド人と表現される)になるための心得が書かれています。その中から私は2つの心得を実践してみました。

  1. 自らのミッションを明確にし、他者と共有すること
  2. 自身を知り探求することを恐れないこと

正直、「そんなことなら」と思い取り組み、発見したのは、頭で理解できても行動に移すのは難しいのは言うに及ばず、自分が目を逸らしていたことをこの目で見なければならないということ、そして自分のなかのあらゆる固定観念との戦いであることだったのです。

一つ目の『自らのミッションを明確にし、他者と共有すること』。
ミッションを明確にするにしても他者との共有はなかなか難しいものです。「今さら公言したところで…」という諦めと「言ってしまったからにはやらなければいけないし周りから何を言われるかわからない」という怯え。つまり、他者からのフィードバックを受け入れる勇気がないのです。

私は社会人になって10年目。転勤も転職も経験しましたが、キャリアが進むにつれてフィードバックされる機会は減っていきます。自分自身によるフィードバックを試みても、人の振り見て我が振り直せの精神で、こっそり学びなおすのが限界。時には人の振りすら見る余裕もありません。はたと立ち止まったとき、自分の成長も衰退も気付けなくなっていたのです。

しかし、成長のきっかけや行動の変化は必ずしも自分で見えているところに落ちているわけではないのだと思います。自分の歩んできた道に落としてきたものを誰かが拾ってくれるかもしれない。もしかしたら、他人と衝突することで、初めて気がつく何かがあるかもしれない。その新たな出会いのためには、自らがまず自分の想いや情熱を発信しないと得られないものなのだと本書は教えてくれています。

私は今年からMCCで働きはじめました。前職はメーカーの営業でしたので、経験することのほとんどが初体験です。新たな壁との衝突はなにが起こるかわからず、正直、フィードバックされることは怖い。「社会人10年私は何をやってきたのだろう」と落ち込むことも。

でも、新たな壁は日々見たことのない自分との出会いももたらします。慣れてくると、こんなに面白いこともないのだと身をもって経験しています。
このことは、二つ目の『自身を知り探求することを恐れないこと』にも繋がってくるのです。
新たな自分との出会いといっても、いつも感動的とは限らない。今さら気付かされる自分の弱さに落胆することのほうが多い気がします。しかし、この探求こそが自分の価値を発見し、高め、自分のブランド価値へとつながっていくことが一流ブランド人への大きな一歩なのだと本書では語られています。

変化の激しい現代を生きぬくために

「私の仕事のやり方はこうだ!」「このままこのキャリアを歩めばきっとこうなるだろうな」という自分の中の固定観念は変化の激しい現代においては、いつ覆されるかわかりません。
来月から全く知らない部署に行って仕事しなければいけないかもしれない。会社が突然買収や合併で変わってしまうかもしれない。
大きな変化の渦の中にあっても、自分を見失わずに力を発揮するには、自分自身を探求し続け、どんな自分に出会っても驚かずに受け入れる準備をする必要があるのだと思います。自分をブランド化することは、決して会社や名声のためではなく、自分自身が外部環境に流されて一喜一憂することなく、どんなときも自分自身であるためなのだと本書は教えてくれたように感じます。

スターバックスコーヒージャパンは上場を廃止し、正式に米スターバックス本社の完全子会社となることが発表されました。私は、その変化の中にあってもスターバックスのブランドイメージや従業員が突然変わることはないと思います。きっとパートナー達は、今日も「一杯のコーヒーを通して人々に活力を与える」ために、コーヒーを提供し続けることを信じています。
今日買ったスターバックスのカップにはスマイルマークが描かれていました。
私の心と身体にきちんと活力を与えてくれています。

(小川 久恵)

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