ファカルティズ・コラム
2011年04月22日
「日本語の乱れ」で本当に憂うべきこと
「日本語の乱れ」などとよく言われます。
「正しい日本語を使うべきだ」と言う人がいます。
しかし、「正しい日本語」とは何なのでしょうか?
そもそも言葉は生き物。時代とともにそれが変化するのは自明です。
だから新しい言葉が生まれるのは当然で、それは単に「今まで無かったモノゴトに新しい名前をつける」ということだけではありません。
たとえば、ネットのスラングなどもそうでしょう。
猫のことを『ぬこ』、犬のことを『わんわんお』と呼ぶのは、単に生物の種族としての呼び名である猫や犬を「愛すべき存在」として認識しているからです。
以前流行した「KY(空気読めない)」や「MK5(マジでキレる5秒前)」なども、所謂『新語』ととらえるべきで、何ら日本語の乱れとは関係ありません。
だから本来は「正しい日本語を使うべきだ」ではなく、「正しく日本語を使うべきだ」というのがそれこそ日本語の乱れを嘆く方々の主張なのかもしれません。
しかし、この「正しく日本語を使うべきだ」という主張も、私は表面的な主張が多いような気がしています。
私は「正しくない日本語の使い方」として指摘されているものには、問題にすべきものと問題にする必要がないものが混在していると考えます。
たとえば、『らぬき言葉』は意味が通るので問題ありません。
『確信犯』の使い方も、今や「わかっていてやっている」という誤用の方が多数派となり、辞書にも載るようになりました。
また、コンビニ等での「1000円からでよろしかったでしょうか」も、「1000円から代金を引いてお釣りをお渡しするということでよろしいでしょうか?」の省略形と考えられ、これまた意味が通じるので問題にする必要もないでしょう。
「聞いててどうも気持ち悪い」という理由でダメだというのは、あまりにも主観的すぎます。
まあ、個人的には「1000円から」の部分より、「よろしかったでしょうか」という過去形になっている方が「英語だったら絶対ダメだろうなあ」と気になりますが(笑)
要するに「意図したことが正しく伝わる」のであれば良いのです。
文法と違うとか、話し言葉にあまり目くじらを立てるのもいかがなものかと。
ネイティブの英語も話し言葉はかなり文法無視のものも多いはずです。
しかし、こんな寛容な(いい加減な?)私でも、看過できない「問題にすべき日本語の使い方」があります。
たとえば、「かっこいい」や「あぶない」の強調語として、さらに強調される形容詞も省略して使われる「ヤバい」などです。
ある状態や自身の考えなどを表現する際、それらを表す言葉は多種多様に存在します。
そしてその『表す言葉たち』は、同じような意味であってもそれぞれニュアンスは大きく、あるいは微妙に異なります。
その異なるニュアンスを無視して十把一絡げでたとえば「ヤバい」と表現してしまうのは、それこそ「ヤバい(これは本来の意味で使っています(笑))」のです。
その問題点のひとつめは『表現力の低下』でしょう。
せっかく様々な表現の選択肢があるのに、それをうまく使いこなせないと、相手に誤解を与えたり、微妙なニュアンスがうまく伝えられず、自分も悔しい思いをすることになります。
やはりボキャブラリー、それも「知っている語彙の多さ」でなく「適切に使い分けられる語彙の多さ」は重要です。
そして問題点のふたつめ、私はこちらの方がより問題だと考えています。
それは『思考力の低下』です。
様々な状況や考えを「ひとつの言葉だけで表現してしまう」のは、それだけ「抽象的な思考をしている」ことの現れです。
具体的に考えず、ぼんやりとした、モヤモヤとした曖昧なまま、問題や課題について頭を使っているわけですね。
これでは具体的な行動にも結びつきにくくなります。
また、別の言い方をすれば「テキトーに考えている」ことになりますから、出てくる答えも間違っている確率が高くなります。
「とにかくヤバいんだって!」でなく、もっと具体的なアタマを使うべきです。
さて、ここで考えてみてください。
抽象的な言葉で十把一絡げで考えてしまうのは、「ヤバい」などを使う若者だけでしょうか?
いいえ、私たち大人、特にビジネスパーソンも、若者達をーの日本語の使い方に眉をひそめることはできないはずです。
「今はやはりサスティナビリティが重要だ」など、「何の・どのような」を具体的に考えずに使うのも全く同じです。
キャッチーな『ビジネス横文字言葉』を使えばかっこいいと思っていませんか?
また、「具体的に何をやるのか、またそれが実現できた状態とはどのような状態か」を明確にせずに「○○の活性化が課題だ」とか「○○の強化が急務だ」とかしたり顔で言っていませんか?
抽象的な言葉を使うのが悪いわけではありません。
抽象的な言葉を抽象的なままで具体的に定義せずに使うことが問題なのです。
ヒトは言語を使って思考します。
特に高度かつ複雑なな問題解決においては、言語を使用せずに思考することはできません。
そして私たちは日本語を使って思考しています。
だから、もっと「日本語の選び方」に気を遣うべきです。
言葉にこだわり、日本語をもって丁寧に扱うべきなのです。
「言葉に対するこだわりの薄さ」に起因する思考力の低下はなんとしても避けなければなりません。
そしてそれは別に若者だけの問題ではないのです。
個人的には、若者達の言語センスにはさほど心配していません。
というのも、前述のような新語を次々と生み出していますし、私のtwitterでも紹介した「ニーチェとニートの違い」などは私も唸ってしまったからです。
また、形容詞などは語彙が少なくても、それを修飾する副詞も次々に生み出しています。
「超」などもそうですし、「ワロス(笑った)」の「ミリワロス」「ギガワロス」「テラワロス」など、単位を使うというのも「よく思いつくなあ」と思いませんか?ww
上の「w」の量で笑いの大きさを表現するのもその一種ですねwwww

桑畑 幸博(くわはた・ゆきひろ)
慶應MCCシニアコンサルタント
慶應MCC担当プログラム
ビジネスセンスを磨くマーケティング基礎
デザイン思考のマーケティング
フレームワーク思考
イノベーション思考
理解と共感を生む説明力
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
主な著書
『屁理屈に負けない! ――悪意ある言葉から身を守る方法』扶桑社
『映画に学ぶ!ヒーローの問題解決力』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2020年
『リーダーのための即断即決! 仕事術』明日香出版社
『「モノの言い方」トレーニングコース』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2017年
『すぐやる、はかどる!超速!!仕事術』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2016年
『偉大なリーダーに学ぶ 周りを「巻き込む」仕事術』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2015年
『すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』大和出版
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