ファカルティズ・コラム
2014年02月07日
結局それって何パーセント?
最近、タイトルに「9割」をうたった本が多いと思いませんか?
ちょっとAmazonで検索したら、やっぱりたくさんありました(笑)
以前、「人は見た目が9割」という本が話題になりましたが、ビジネス関連だと「伝え方が9割」「仕事の9割は数学思考でうまくいく」「たった5秒思考のムダを捨てるだけで、仕事の9割はうまくいく」など。
健康関連では「もの忘れの9割は食事で治せる」「9割の不眠は「夕方」の習慣で治る」「人の命は腸が9割」etc…
他にも、勉強関連から生き方まで、様々な「9割」を売りにした本がヒットします。
さて、これだけたくさんの「9割」本がある理由は、やはり「役立つに違いない感」があるからでしょう。
これは「9割」と数値化しているところがポイントです。
これが「だいたいの仕事は数学思考でうまくいく」や「もの忘れの多くは食事で治せる」だと、どうも曖昧、いい加減な感じがして、「これは買わねば」となりにくい(笑)
要するに出版社による「本を売るための手段」のひとつで、なんとなく「本の売れ行きはタイトルが9割」、という出版社の考え方が透けて見えるようです(笑)
(本当に9割かどうか、検証が難しいのもあるでしょうね)
やはり「定量化」し、極力あいまいさを排除するのは重要ですね。
しかし私たちは、本来は数値化できる(すべき)度合いや割合、確率を、定性的・感覚的に表現する傾向にあるのも、また現実です。
仕事の進捗を聞かれたとき、
「だいたい終わってます」
「ほぼ終わってます」
などと答えていませんか?
また、商談の状況を報告するとき、
「まずまずです」
「かなりいい感じです」
という表現をしていませんか?
確かに、正確な数値化が難しいことの方が多いでしょう。
だから私たちは、定性的・感覚的に度合いや割合、確率を表現します。
「だいたい」「ほぼ」「ほとんど」「概ね」「おおよそ」「かなり」「そうとう」「けっこう」「むちゃむちゃ」「超」etc…
「九分九厘」なども、実は正確な確率ではありませんよね。
さて、私は別に「こんなあいまいな表現をすべきではない」と言いたいのではありません。
先に述べたように、正確なに度合いや割合、確率がわからないことの方が多いですから。
しかし、こうした表現によって仕事上問題が出る可能性がある場合は、やはり極力定量的に表現すべきだと思うのです。
なぜならば、こうした定性的・感覚的表現は、人によって微妙に定義が違うからです。
あなたは、「だいたい終わってます」と「ほぼ終わってます」を、どのように使い分けますか?
「だいたい」と「ほぼ」では、どちらの方が割合として大きいですか?
そして「だいたい」と「ほぼ」は、それぞれ「何パーセント」くらいだと思いますか?
これには個人差があります。
私が実際に調べてみたところ、わずかながら「だいたい」の方が「ほぼ」より大きいと考えている人がいました。
また、これを感覚的に数値化してもらうと、「だいたい」は60%から90%、「ほぼ」は80%から95%と、かなりバラツキと重複がありました。
このように定義がバラバラの言葉を使って「だいたい終わってます」と答えたとき、答えた本人が60%程度、聞いた相手が90%程度と認識していたらどうなるでしょう?
プロジェクトの進捗会議でこんなやり取りが行われていたとしたら、納期遅れが出てしまうのも当然だと思いませんか?
ですから、こうしたケースでは、「6割程度終わってます」や、それこそ本のトレンドにならって(笑)、「9割方終わってます」のように、できる範囲で定量的に表現すべきだと思うのです。
実際、あるITベンダーでは、「会議におけるNGワード」として、これらの曖昧な表現を禁じているところまであります。
こんな「どうでもいいようなこと」に少し気をつけるだけでも、防げる問題はあるのです。
できる範囲で構いません。
このブログでは何度も「言葉の定義を明確に」と言ってきましたが、こうした度合いや割合、確率の定性的な表現でも、やはり「定義しようとすること」が大切だと感じていただければ幸いです。
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ところで、「九分九厘」という言葉に疑問を感じことはありませんか?
「3割5分」が「35%」を意味することを考えれば、「九分九厘」は「9.9%」であり、「九分九厘ウチの勝ちです」では、それこそ「ほぼ負けます」と言っているに等しくなりますから。
・・・実は、私たちが考えているように、「九分九厘」は「9.9%」でなく「99%」を意味します。
というのも、そもそも「一分」とはある全体の「10分の1」を意味する言葉であり、常に「1%」を意味するわけではないからです。
だから「九割九分」と「九分九厘」は、ともに「99%」、いや「ほとんど」を感覚的に定量化した言葉なのですね(笑)

桑畑 幸博(くわはた・ゆきひろ)
慶應MCCシニアコンサルタント
慶應MCC担当プログラム
ビジネスセンスを磨くマーケティング基礎
デザイン思考のマーケティング
フレームワーク思考
イノベーション思考
理解と共感を生む説明力
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。
主な著書
『屁理屈に負けない! ――悪意ある言葉から身を守る方法』扶桑社
『映画に学ぶ!ヒーローの問題解決力』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2020年
『リーダーのための即断即決! 仕事術』明日香出版社
『「モノの言い方」トレーニングコース』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2017年
『すぐやる、はかどる!超速!!仕事術』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2016年
『偉大なリーダーに学ぶ 周りを「巻き込む」仕事術』日本能率協会マネジメントセンター通信教育教材2015年
『すごい結果を出す人の「巻き込む」技術 なぜ皆があの人に動かされてしまうのか?』大和出版
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