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ピックアップレポート

2026年09月08日

高橋 俊介著『人事・組織改革とキャリアデザインを拓く』

高橋 俊介
ピープルファクターコンサルティング代表


著者:高橋俊介、監修:梅崎修・島西智輝・南雲智映

高橋俊介氏の全四回のオーラルヒストリーを再編集した書籍『人事・組織改革とキャリアデザインを拓く: 高橋俊介オーラルヒストリー』が出版された。個人主導のキャリア開発や組織の人材育成研究の第一人者である高橋氏の語りは、人事とキャリアの歴史証言として価値あるのはもちろんであるが、現役の人事担当者にとっても多くの知見に溢れていると思える。そこでこの出版化の意義をご紹介する意図含め、本書にこめた氏のメッセージを本書「あとがき」よりご紹介したい。


あとがき

まずこのオーラルヒストリーの記録という大変貴重な機会をいただいた、そしてその整理というとても時間を要する仕事を担っていただいた梅崎修先生、そして島西智輝先生、南雲智映先生に御礼申し上げたいと思います。思いもよらない機会でしたが、40年以上人事をめぐる諸課題に関わってきた自分として、あらためてそこからの学びを時系列で整理できたことはとてもありがたいことでした。またキャリアの研究者として私が最も好きだったキャリアインタビューという作業を、自分自身に行うということでもありました。

そのなかで改めて強く思ったことを最後にいくつか整理させていただきたいと思います。まず、日本の人事の世界は、もちろん少しずつの進捗はあるものの、同じところで堂々巡りしていてそれほど先に進んでいない部分が少なくないのではないかということです。テクノロジーは言うに及ばず、それが良いか悪いかは別として、ビジネスモデルやガバナンスモデルの方は大分変化してきていると感じます。当初社外取締役など日本では機能しないという批判もありましたが、今ももちろん実態がお飾り社外役員の企業も少なからずあるでしょうが、そうではなく明らかに牽制機能を果たしている会社も多くなってきていると思います。当時著名なある経営者が、「取締役はサラリーマンの勲章だ。その社内昇進取締役の数を減らしてどうする。」と批判しましたが、物事の本質は中根千枝氏の言うタテ社会的組織自体が日本のビジネスモデルや経営環境にも合わなくなってきたということではないかと思います。

一方、人事の世界は職能資格制度の形骸化を経て1990年代末くらいからの団塊世代の賃金抑制を当初の目的とした「成果主義」がおかしな方向に行き、その後今度はバブル入社世代の賃金抑制のために手垢のついた「成果主義」ではなく「ジョブ型」という言葉を使おうとする。さらに言えば数十年前の人事制度改革の背景と実際からの学びが整理踏襲されずにバズワードが消費されていく。

梅崎先生が解題で述べておられるように、その背景の一つは二項対立があると思います。私は昔から日本型・アメリカ型という、この図式が非常に問題だと感じていました。これだと歴史軸に加えてビジネスモデルとの親和性や働く人たちのデモグラフィーや仕事観の変化といった重要な要素が捨て去られてしまう。マッキンゼーの頃、クライアントへの提案の基本は差別性であり、競合他社とここが違うという訴求が大事であった。しかし、人事の世界に入って衝撃だったのは、こんな人事制度はどうかと言えば、それはどこかほかでもやってますか、事例が多ければ安心なんだけどという反応でした。つまり人事の世界では戦略性つまり差別性による競争上の優位性という発想は不要なんだと。人事とは良くも悪くもインフラであり大事だが、そこで違いを訴求するのではなく問題を起こさないことがなにより。あえて言えば固有名詞の人事が経営上のキーになる、つまり人を見る目という科学的根拠に乏しい人間力といった議論以上に発展性がない。当時人事の世界には日本以外も含めて戦略系コンサル出身者がほとんどいない時代です。人事に日本型・アメリカ型なんてないんだ、あるのはわが社型だといってもピンとこない人が少なくなかった。

一方でヒューマンキャピタルという言葉は1990年代後半には日本でも使われ始め、今でいう人的資本経営、1998年当時、私は知的資本経営という表現を使いましたが、そして戦略人事という言葉が注目されるようになった。つまり戦略の一つの定義である、「長期的に維持可能な競争上の優位性構築の計画」という概念の中で、もはや人こそが長期的優位性の源泉だということになっていった。
それが最近伊藤レポートであらためて注目され、なにか新しい概念のように思っている人さえいる。なので人事は同じところでぐるぐる回っていると感じるわけです。

本文でも申し上げたように、バズワードに振り回されずに、あるいはバズワードを消費するのではなく、人と組織の本質を腹落ちさせ、時間軸やビジネスモデルの変化の本質を理解して前に進んでいくためにも、人と組織に関するリベラルアーツを学び、自分なりの人と組織の世界観を作っていくことが、人と組織の分野のプロフェッショナルや研究者、さらには経営者にとって欠かせないと思います。戦略系コンサルで、日本企業の本質的問題の一つは人の部分に戦略性が欠けていると感じ、35年ほど前から経営視点の組織人材マネジメントを最初のテーマとして追い続けました。そして25年前に慶應SFCにキャリアラボができ、そこに参加してからは自律的キャリア形成という自分にとっての生涯の背骨になるテーマが加わりました。

そしてそののち10年ほど前から人と組織のリベラルアーツというテーマに取り組み始めて今に至るわけです。
長年企業の外から人と組織の問題を見てきた経験が何か多少なりとも何かの参考になれば大変うれしい限りです。


人事・組織改革とキャリアデザインを拓く』(千倉書房2026年8月)を著者と出版社の許可を得て、解題およびあとがきを抜粋・編集しました。無断転載を禁じます。


高橋俊介先生の講演会

10月7日(水)18:30-20:30
「平成・令和の人事管理とキャリア形成を振り返る」
https://www.sekigaku.net/sg/reserve/lecture
「経営コンサルを経て、私が人事の世界に入ったのがちょうど平成元年でした。それ以来、日本と欧米の人事管理やキャリア形成に関わり調査研究を続けてきました。人事は日本では「日本型」「欧米型」という静的な二項対立で語られ、またバズワードに振り回されてきた歴史だったと感じています。それだけに人事やキャリアをめぐる歴史的な経緯と背景を理解することがとても大事です。今回それを私のオーラルヒストリーとしてまとめていただきましたので、限られた時間ですがそのエッセンスをお伝えできればと思います。」

◆ハイブリッド受講(丸の内会場とオンライン受講を選べる):5,500円
◆オンライン受講(オンライン受講のみ・予約変更不可):4,400円
◆全回予約券なら1講演あたりの受講料がお得になります
受講料金・割引制度

高橋 俊介

高橋 俊介 (たかはし・しゅんすけ)

ピープルファクターコンサルティング代表

1978年東京大学工学部航空工学科卒業後、日本国有鉄道に入社。1984年プリンストン大学院工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニーを経て1989年ワイアット(現ウイリス・タワーズワトソン)に入社。1993年代表取締役社長に就任。1997年独立し、ピープルファクターコンサルティング設立。

2000年5月より2010年3月、および2011年9月より2022年3月まで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(CRL)研究員、同大学大学院政策・メディア研究科特任教授、同大学SFC研究所上席所員を経て現職。個人主導のキャリア開発や組織の人材育成の研究・コンサルティングに従事。

担当プログラム
キャリアアドバイザー養成講座
人と組織の世界観ゼミナール

他の記事や著書詳細は講師詳細ページをご覧ください

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