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夕学レポート

2012年12月14日

2030年、あるいは2050年の世界  船橋洋一さん

photo_instructor_650.jpg2012年は世界主要国で指導者を決める選挙の年であった。
ロシア、フランス、アメリカ、中国、そして来週は韓国で新しい指導者が決まる。
新体制によって世界はどう変わり、日本はどうなるのか。
それを知りたいのは素朴な欲求ではあるが、その欲求に応える企画は誰もが考えそうなことでもある。
そんな短期的な予測は、他にいくらでもある、もっと大きなスパンで世界の変化を考えよう。
口には出さないが、日本を代表するジャーナリスト船橋洋一さんの思いはそういうことではなかったか。
2030年、或いは2050年の世界はどう変わるのか。
長期的な波動で世界を捉えてみよう。
きょうの夕学のコンセプトは、こういうことであった。
参考情報として、船橋さんが紹介してくれた長期予測は三つ。

・『2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する』(文藝春秋社)

・米中央情報局(CIA)などで組織する国家情報会議(NIC)がまとめた「2030年の世界情勢を展望する報告書」
・船橋さんの著書『新世界 国々の興亡』(朝日新聞社)
2030年、或いは2050年の世界を予測するに際して、各書に共通する切り口は同じでる。


1.人口問題
先進諸国は人口減少に拍車がかかっていく。手をこまねいているとGDPの減少は免れない。
日本でいえば、人口減退が毎年1%ずつのGDP押し下げ要因になるという。
欧州のように移民でそれをカバーしようとすると、極右勢力の台頭を招く。移民増大は、短期的には財政へのしわ寄せを避けられない。
間違いなく政治と社会の不安定化は増していく。
日本の「失われた10年(20年)」から生まれた「Lost decades」というキーワードは、いまや世界の先進国の共通課題となった。
日本が抜け出せずにいるLost decadesに、欧州が迷い込み、やがて中国が遭遇する。
一方で、新興国では人口爆発が起きる。
インドは2050年に人口17億人。30年頃には中国を抜いている。
ナイジェリア、タンザニア、インドネシアなどでも人口が増大し、巨大な中産階級が誕生する。彼らは政治的、経済的にそれぞれの国を、そして世界を変える起爆材になるだろう。
2.食糧・水・エネルギー問題
新興国の人口増大(特に中産階級)は、世界の食糧・資源の輸出入地図を反転させる。グローバルな資源・食糧争奪時代が起きる。
食糧・水・エネルギーが、国際経済・政治交渉の切り札として扱われるようになる。しかも、プレイヤーとカードの持ち手を大きく変えたゲームとして。
3.アメリカと中国の関係 それがもたらす世界の政治システム
米国社会は、民主党永久政権になる可能性もあるという。
今年の出生児の50%以上は非白人であった。特にヒスパニックが増大している。
先の米大統領選では、彼らの80%がオバマを支持した。劣勢に回った共和党が原理主義的な方向に傾いてしまったことで、それに拍車がかかった。
マイノリティーの増加は、財政支出圧力となるが、財政難の政府がそれに応えられなくなった時にアメリカ社会はどう変わるのか。
不安定化の後にどういう風が吹くのか予測がつかない。
社会変質をしたアメリカが、2030年、あるいは2050年の世界でどう振る舞うのか。
力点をどこに置き、立ち位置はどこに移り、作法がどう変わるのか。
特にアジア・太平洋地域におけるそれがどうなるのか。
世界一の経済大国に成長しているであろう中国は、注意深く、脅威を抱きつつ見守っている。
アメリカは押してくるのか、引いてくるのか。
かつてのソ連に対峙したような敵対的振る舞いを中国にしかけてくるのか。
米中は、経済的には依存関係、安全保障では警戒関係というダブルスタンダードが今以上に強くなり、恒常化することになる。
「マネージング・パートナーシップ」
船橋さんは、米中関係に象徴される、今後の国際交渉のあり様を説明する際に、この言葉をもって説明してくれた。
いまにも降りだしそうな曇り空の下で、握手しながらも、テーブルの下で蹴飛ばし合う関係を意味する。
中国も米国も、伝統的にこの手の交渉に手慣れているが、日本は最も苦手とするところである。
船橋さんは、こうも予測する。
世界は多角化なしの多極化へ向かう。
多角化は国際協調主義を基盤として共有する。違いを認めつつ協調することを旨とする。
多極化は異なる。剥き出しの我欲追究や裏取引が横行することになる。
20世紀に、二度の世界大戦を教訓にして形成されてきた国際協調に基づく秩序体制が機能しなくなるかもしれない。
表世界では、国際社会に向けての戦略的コミュニケーションの重要性が益々強まる。
尖閣や竹島問題のような紛争や揉め事を、自国有利に展開するように国際世論を形成しようとする、したたかで、戦略的な情報発信・論理展開が必要になる。
すでに、中国・韓国は歩調を合わせるようにして、尖閣・竹島問題を日本の歴史認識問題にすり替えて主張をしている。
戦略的コミュニケーションは、これまた日本が苦手とする領域である。
さて、2030年、或いは2050年の世界に向けて、日本はどうすればよいか。
個人へのエンパワーメントを進めながら、グローバルに広がるネットワークを草の根的に活用するしかない。
船橋さんの提言は、個人の領域へと進んでいった。
例えばFacebookは10億人をつなぐネットワークツールである。
自律した個人が、自らのネットワークを最大限駆使して、日本の立場と論理を世界に向けて発信していくこと。
その必要性を理解し、作法に通じることが重要ではないか。
「任せて文句をたれる」から「引き受けて考える」
先週(12/6)の宮台真司さんの提言と奇しくも、ここでつながった。

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