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天国へのドア?地獄への門?

2018年03月13日

山内 久未

ヒント1:最近はだいぶ少なくなりましたが、今でも日本中いたるところで見かけます
ヒント2:多くの外国人旅行者は、これに出くわすと「絶望的な気分になる」そうです(実は…私もあまり好きじゃありません)
ヒント3:私が小さいころ、学校やおじいちゃんおばあちゃん家は大抵コレでした
ヒント4:英語名はJapanese style 〇〇,あるいはTraditional squat 〇〇

さて、皆さま。これらのヒントが表すものはなんだかお分かりになりましたか?

正解は…そう。「和式トイレ」です。
太古の昔から存在し、世界中どこにでもあり、誰しもが利用するものですが、外国人から見たら実は不思議だらけな日本のトイレ。普段仕事や友人として外国人に接することがあったとしても、トイレについてじっくりと語り合う機会はないのではないでしょうか。いま貴方の目の前で話している外国人の誰かも、実は人知れずと異国の地である日本のトイレにびっくりしている一人かもしれません。

今回は、お客様と一緒に旅をする通訳ガイドだからこそわかった、外国人にとってスーパーユニークな日本のトイレの世界をご紹介いたします。(というわけで…お食事中の方は回れ右!してくださいね。)

恐怖の「スクワットトイレ」

まず基本的なことからですが、日本語で言う「トイレ」(toilet)は便器そのものを指すかなり直接的な言葉ですので、英会話ではまず使いません。海外で、日本人と思われる綺麗で上品なご婦人やスーツでびしっと決めたイケメン紳士が

“Where is the toilet?”

と尋ねて、お店の人がびっくりしているのをたまに見かけることがありますので、皆さまもご注意くださいね。「お手洗い」「洗面所」のように、英語では “wash room” “rest room” と表現するのが一般的です。

さて、冒頭のヒントでお伝えした “Traditional squat toilets”(伝統的なスクワット便器)。初めて目にした時、思わずぷぷっと吹き出してしまったと同時に、使用時の体勢を見事に表現したこの英訳の芸術的センスに感動すら覚えました。

実はこれ、世界で最も多く売れている観光ガイドブックのひとつ “Lonely Planet” のJapan編で見つけた言葉なのです。昨年、ニューヨーク旅行に行った夫に「日本について英語で書かれているガイドブックを買ってきて!」とお願いしたお土産なのですが、これがまあ面白い。 “Toilets” という欄だけでも実に400文字以上。細かい文字でびっしりと情報が書かれています。ほんの一部だけ抜粋しますと、こんな感じです。

・Toilet paper is usually provided, but it is a still good idea to carry tissues with you. You may also be given small packets of tissues on the street – a common form of advertising.
通常、ペーパーは備え付けられていますが、ティッシュを持参されるのも良いでしょう。なお道端で小さいティッシュをもらえることがありますが、これはよくある宣伝の方法なのです。

・You will come across traditional squat toilets in Japan.
日本で、伝統的なスクワット便器に出くわすことがあるでしょう。

・When you are compelled to squat, the correct position is facing the hood, away from the door.
もしスクワットせざるをえない状況になってしまった場合、ドーム状の部分に向き合って、ドアから離れるのが正しいポジションです。

・In many bathrooms, separate toilet slippers are provided. These are for use in the toilet only, so remember to change out of them when you leave.
多くのお手洗いでは、別のスリッパが用意されています。これらはトイレ専用ですので、出るときに履き替えるのをうっかり忘れないように注意してください。

私たちにとってはどれも当たり前のことだらけ。日本を訪れる外国人の多くが手に携えてくるガイドブックに、これだけ懇切丁寧に解説されていることに驚くばかりです。思わず笑ってしまうような記述も正直ありますが、一方で「海外の人にとっては、日本のトイレってこんなに特殊なんだな」と妙に納得したのでした。

通訳ガイドはトイレで指差し確認必須!

実はこの「和式トイレ問題」、通訳ガイドにとっては真剣な問題です。福岡でガイドデビューした際に受けた新人ガイド研修では、講師の先生方に「立ち寄る予定の観光地、レストラン、パーキングエリアなど全ての場所に洋式トイレがいくつあるか、必ず確認するくせをつけなさい」と教えていただきました。というのも、全国的に外国人旅行者は増加の一途を辿る中、特に近年、大型の海外クルーズ船の乗り入れが増えている博多や長崎では、寄港地で下船した乗客たちが大型バスで各地を観光します。一気に何十人というお客様を連れてご案内する場所で、いざトイレ休憩を…と思ったら、「ほとんどが和式トイレで、洋式トイレは1つしかない」というのは深刻な大問題なのです。またクルーズ船には足腰の弱ったご年配のお客様も多く、階段を上ることすら難しいのに“スクワットトイレ”なんて到底使えません。私もこの研修での教えに従い、下見の際は何処へ行ってもまずトイレの場所!そして洋式トイレの数!(とついでにトイレの清潔さ)をチェックするのが慣例になりました。

ところが先日、思わぬところでスクワットトイレの洗礼を受けてしまいました。フィリピン人の女性3人と地下鉄の六本木駅で電車を降りたときのことです。そのうちの一人、Nicoleさんがホームにあった公衆トイレを見つけ「あ!ちょっと私、トイレ行きたいから行ってくるわ!」と走り出しました。すぐ近くの六本木ヒルズに向かう途中だったので「あ…!だったら六本木ヒルズのトイレを使った方が…」と声をかける間もなく、トイレに吸い込まれていくNicoleさん。他の2人と待っていると、ほどなくしてどこか憂いを帯びた苦笑いを浮かべながらNicoleさんが出てきました。

「慌てて個室に飛び込んだら、Japanese Style Toiletだったの…。他の個室は全てふさがっていたから使えないし…しかたなく初めて使ってみたけど…」

まあなんとかなったからOKよ、と言いつつ、その後もどこかテンションの低いNicoleさん。聞けばフィリピンでも、和式トイレに似たような跨るタイプのトイレがあるけれど、最近はあまり見かけなくなっているのだそう。中国やアジアの一部地域でも、同じように昔からの跨るスタイルのトイレから、西洋スタイルに移行が徐々に進んで行っているようです。世界トップレベルの衛生状態を誇る日本。2020年オリンピック開催に向けて、老若男女問わず、全世界の人がストレスフリーで使える洋式トイレのさらなる普及を願うばかりです。

誰もが幸せになる魔法の「コックピット」

海外の人を恐怖に陥れるトイレがある一方、幸せに導くトイレもあります。

夜行便のツアーで来日したイギリス人のAnabelちゃん、10歳。朝早いためホテルにチェックインできず、とりあえず荷物だけをフロントに預けて都内を観光することになりました。ところがAnabelちゃん、飛行機内であまり眠れなかったようで、なんだか顔色が悪く見えます。思わずママに「なんだかAnabelちゃん、顔色が青白くないですか?少し出発を遅らせて、このままロビーで休んでから観光にします?」と声をかけると、ママもどうしたものかしらと心配顔。すると、Anabelちゃん「…とりあえず、トイレに行ってくるわ」と、多少ふらふらしながらホテルのお手洗いへ向かっていきました。待つこと数分。今日の予定をどう変更しようかと頭を悩ませていたママと私のところに戻ってきたAnabelちゃんの表情は先ほどとはまるで別人!瞳をキラキラさせ、頬は紅く染まっています。

「ねえ!Kimmy!!!すごいの!!トイレに座ったらね、便座があったかいのよ!!!

そう。フライト疲れでよれよれになっていたAnabelちゃんに元気を与えたのは、日本が世界に誇る偉大な商品、ウォシュレットだったのです。もともと、アメリカで医療用に発明されたウォシュレットが日本に持ち込まれ、リクシル・TOTOといった大手メーカーが開発を進め、現在もなお進化を続けるウォシュレット。電気系統や水質の問題から、実は海外にはまだあまり普及していません。世界の歌姫マドンナが何度目かの来日の際に「日本の温かいトイレシートが恋しかったわ」と発言したというエピソードまであります。ただ便座が温かいだけでなく、お湯が出る洗浄機能があり、脱臭機能があり…Anabelちゃんいわく「日本のトイレはまるでコックピットみたいね!」

その後、Anabelちゃんご一家とは3日間一緒に過ごしましたが、彼女が日本で一番感動したのは、食べ物でもお寺でも神社でもなく「日本のトイレ」だったそうです。

とっても日本人らしい、あの機能

最後にご紹介するのは、ウォシュレットの消音機能、いわゆる「音姫」ボタン。私たち日本人にとってはなじみのある機能ですが、用を足す際の音を恥ずかしがるという感覚のない外国人にとってはとても衝撃的。最近では、座ると自動的に流水音や小鳥のさえずりを奏でるトイレもありますよね。

たまに来日したてのお客様がそんなトイレに出くわすと、おろおろしながら

「なんか…今トイレに入ったらどこからともなく小鳥のさえずりが聞こえ始めたんだけど…何が起こったの?!?!」とまるで怪奇現象に出くわしたような顔でびっくりして出てこられます。消音機能についてご説明すると、「え!!!そのためだけに音を流すの?!日本人って本当にシャイなのね!!アンビリーバボー!!」と大爆笑されます。

恥ずかしがり屋で、かゆいところに手が届く、きめ細かいサービスが大好き。
「音姫」ボタンは、ある意味どんな偉大な文化財よりも、日本人らしさが垣間見えるアイテムなのかもしれません。

山内 久未(やまうち・くみ)
慶應丸の内シティキャンパスで2年間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。退職後、約2年間の勉強生活を経て2015年春より通訳案内士(通称:通訳ガイド)として日々奮闘中。

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