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2018年05月08日

新幹線クエスト

山内 久未

最大9連休となった今年のゴールデンウィーク。いつもより少し足を延ばして、遠出のお出かけをされた方も多いのではないでしょうか?限られた日本での滞在期間、より遠く、よりたくさんのスポットを周りたいのは外国人旅行も同じです。今回は、そんな外国人の皆さまと、日本の公共交通機関にまつわるお話です。

超お得な訪日外国人用パス

東京駅や京都駅など、JRの主要な駅で最近本当によく見かける外国人観光客。その手には、パスポート大のサイズの桜と富士山の絵をあしらった冊子のようなものを手にしている方が多いです。実はこれ、JAPAN RAIL PASS(以下JPパス)というJRグループ6社が共同して提供する訪日外国人旅行者向けのフリーパス。なんと日本全国のJR路線が7日間29,110円で乗り放題になるという大変お得なチケットで、東京~京都を往復して、行き帰りに成田エクスプレスに乗れば、それだけでじゅうぶん元がとれてしまいます。在来線もOKですので、都内を巡るときは山手線に乗り、ちょっと足を延ばして横浜や鎌倉へ・・・という利用方法もできます。いちいち券売機で切符を買う手間も省け、気軽に日本を周遊できるチケットです。

このように利点が多く、私のお客様も多く利用されているJRパスですが、お客様からも、通訳ガイドとしても「JRさん!もうちょっとなんとかして~!!」と思わず声が出てしまうトホホな面もあるのです。

成田空港の切符売り場が異常事態?

JRパスはあくまで「外国人」の「旅行者」に限定したサービスなので、購入には様々な制約があります。(10年以上海外に暮らしている方の一時帰国であれば、日本人でも購入資格はあるそうです)まず、基本的には日本に来る前に事前購入すること。ただし海外で手に入るのはチケットそのものではなく、引換証のみ。JTBなどの海外支店で事前に引換証を買い求め、日本に入国した際にその引換証を、駅の窓口で、対面で、チケット本体に引き換える必要があります。

さあ、皆さま。ご想像ください。世界中からはるばる日本にやってきた、たくさんの旅客機が成田空港に到着し、そこから日本に降り立った無数の乗客たちが成田エクスプレスに乗って都内へ向かうために、長時間のフライトの疲れもとれぬまま、引換証を手にぞろぞろぞろとJRの窓口に向かう光景を。はい。そうなんです。時間帯にもよりますが、成田空港のチケット引き換え窓口は結構な割合で長蛇の列。ピーク期などは「え?ここはディズニーランド?」と思ってしまうほどです。

引き換え自体は都内の主要な駅でもできますので、JRパスの利用をいったん諦めて、往路の成田エクスプレスチケットを別に買えば、あるいは京成スカイライナーやリムジンバスを使えば、必ずしもこの列に並ばなくても良いのですが、少しでもお得に過ごしたい!と考えるのもまた人間の性。このような事態の救済措置としてなのか?2017年から2019年までの「期間限定」という形で、事前購入をせずとも、いくつかの主要な駅で入国後のJRパスを購入できるようになりました。これだけIT化の進んだ現代。そもそも窓口で対面購入、というシステム自体がなんとかならないのかしら…とつい思ってしまうのです。

日本での最難関ミッション?!「指定席を予約せよ!」

そんなこんなでようやく手に入れられたJRパス。しかし、本当の試練はここからです。

このJRパス、追加料金なしでJR全路線の新幹線(のぞみ、みずほは除く)と特急列車の指定席をとることができるのも素晴らしいのですが、問題は「席の予約は、日本のみどりの窓口(もしくはJR指定旅行会社の店舗)で、自分で予約する」ということなのです。そう。またも対面。いまやほとんどの券売機は多言語対応になっていますので、機械であれば自国の言葉で、ゆっくり予定を考えたり、空席状況を確認しながら予約できるのですが…。

さあ、想像してみてください。母国語が全く伝わらない異国の地で、異国の窓口の係員に
「〇月〇日の朝8時くらいの京都行の新幹線空いてる?僕たち新婚だし、あ、富士山も見たいから2人掛けのD席とE席でお願いできる?荷物が多いから、できれば車両の最後尾がいいなぁ。ああ、そう、空いてない。じゃあ予定を変更してやっぱり△日の夕方の便にしようかな?」と、こんな風にオーダーできるでしょうか?私は絶対無理です。

特に来日したばかりのお客様の場合、私は必ずJRパスを使って新幹線などに乗る予定があるかどうか、チケットの予約が済んでいるか確認するようにしています。まだの場合は少しツアー中のお時間をいただいて、一緒にみどりの窓口へ行って、予約のお手伝いをします。

余談ですが、新卒で入社した旅行会社の新人研修では「JR時刻表の早調べ」というオモシロ実習がありました。「A地点からB地点まで、乗り換え3回で行ける運賃及び時刻を調べよ。ただしこの日は繁忙期」というお題で、いかに早く正確に時刻表を引けるかをひたすら訓練するのです。昔取った杵柄・・・ということで、このときの時刻表特訓が思わぬところで今の仕事に役に立っています。

実は、私が個人旅行者のガイドをしていて、一番喜ばれたのはこのサポートかもしれません。サイトにも、こんなうれしい口コミをいただいたことがあります。

Kimmy went above and beyond by helping us buy reserved Shinkansen (bullet train) tickets.
(Kimmyは新幹線の予約を手伝ってくれ、僕らの期待を見事に越えてくれたよ)

また、この口コミとは別のお客様ですが、イギリス人のKateさんはとっても真面目で心配性。来日の1週間前にこんなメールが届きました。

Kateさん「どうしましょう、Kimmy!いまロンドンのエージェントでJRパスを手に入れたのだけど、指定席のリザーブは日本に着いてからでないとできないって言われたわ。〇月〇日の11時に京都で学会があって、それに必ず間に合わなければいけないのだけど。」

― はいはい。大丈夫ですよー。到着日にホテルでお目にかかった後に、一緒に最寄りの駅で新幹線の予約をしましょうね。私が一緒にお手伝いしますからご安心くださいな。

「でもでもでも、もし満席になってしまったらどうしましょう?インターネットもあるし、なんとかイギリス国内でチケットをとる手段はないかしら?」

こんな調子で、Kateさんからは次々と「不安だわどうしましょう」メールの嵐。しかし残念ながらネットでの指定席予約は国内オンリー。空席状況すら、英語サイトでは見ることができません。試しに私が自分のIDを使って空席状況を確認してみると、該当の日の新幹線はガラガラ。来日後でも十分予約がとれそうな状態です。もし旅行代理店経由のツアーなら、代理店に依頼することもできるのですが、Kateさんは完全な個人旅行者。金銭トラブルの問題から、私が代理購入するわけにもいきません。結局、日本語サイトで確認した空席画面を、自分のPCでスクリーンショットに写して、そこに英語で説明書きを加えて、時刻表の英語版もPDFで送って、席が十分に空いている事、日本の新幹線は本数がとても多いから安心してほしい旨をお伝えし、なんとかご納得いただけました。(その後、来日した足で一緒に窓口で指定席を予約でき、安堵からKateさんには抱きつかんばかりの勢いで喜ばれました)

一方、偶然Kateさんと同じ日に大阪出張があった私の夫。出張当日、家を出る直前にアプリでピッピッと指定席を確保し、「あーチケットレスだから便利だなー」とのんきに出かけていきました。
目的や価格は違えど、同じように新幹線を利用するのにこの違い・・・なんだかなぁと思わずため息が出てしまったのでした。

山内 久未(やまうち・くみ)
慶應丸の内シティキャンパスで2年間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。退職後、約2年間の勉強生活を経て2015年春より通訳案内士(通称:通訳ガイド)として日々奮闘中。
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