ファカルティズ・コラム
2009年11月05日
安易に「ググる」ことの危険性
今、我々はインターネットの“クラウド”の中に『第2の脳』を持っています。
人間がここまでの歴史で積み上げてきた膨大な知識の、言語を用いて体系化されたものの多くがそのクラウドの中に蓄積され、刻々と更新・追加されていると言えるでしょう。
そしてその第2の脳からは、必要に応じて簡単に情報(知識)を引っ張り出すことができます。
言うまでもなく、googleに代表される検索エンジンによってです。
「インターネットで検索する」ことを「ググる」と表現するのは最早一般動詞化してしまいました。
また、インターネット上の百科事典であるWikipediaも、情報の真偽と質、偏りに問題はあるものの、「なにかの概要を知る」必用に迫られた時には非常に便利です。
本当に便利な世の中になりました。
極端な話、頭はカラッポでも、「なんだそれ?」と思った時に、必要な情報が出てきた時に、googleやWikipediaは「効率よく情報を入手するツール」としてスグレモノです。
しかし、本当に我々はそれで良いのでしょうか。
「情報の蓄積はクラウド上の第2の脳に任せ、第1の脳たる自分の頭は、必要に応じて第2の脳から取り出した情報を処理することに主に使用する」ことが本当に可能なのでしょうか?
情報の入手に限らず、この「必要に応じて」は耳障りのよい言葉です。
所謂“臨機応変”とも変換することが出来ますから。
「必要な時に必要なモノを必要な量だけ」とは、ロジスティクスや在庫管理などの分野では、いや、今やビジネス全体でも重要なキーワードです。
コンビニやカーシェアリング、様々なレンタルビジネスも、コンセプトはまさにこれです。
しかし、ハードウェアとしてリアルにスペースを占有する“モノ”ならまだしも、大きさも重さもないソフトウェアたる“情報”に対しても、このコンセプトは適用すべきモノなのでしょうか。
ちょっと大げさになりましたね(笑)
もう少し具体的に考えてみましょうか。
さて、この「必要に応じて」とは“リアクティブ(reactive;反応的な(つまり「何かことが起こってから」ということ))”の類義語と言えるでしょう。
リアクティブの反対語である“プロアクティブ(proactive;先読みした)”は、「必要になる前に」を意味しますので。
このふたつの言葉、情報システム開発に携わる方なら先刻ご承知でしょう。
そう、「トラブルにその都度(リアクティブに)対処するのでなく、トラブルを予測して(プロアクティブに)それが起きないようにする」といった使い方をします。
最近では、「泥縄(リアクティブ)でなく、常に先を読んで(プロアクティブ)経営資源の適正配置を行う」などのように、マネジメント全般で使われるようになってきました。
そしてこの概念、情報のマネジメントについても有効です。
そろそろ私の言いたいことがおわかりでしょう。そう、「必要に応じてググってピンポイントに情報に辿り着く」のは、リアクティブな対処法なのです。
このやり方は一見効率的に見えますが、第2の脳に依存している以上知らないことが多いわけですから、いちいち調べる(ググる)必要があり、実は効率が悪いのです。
このリアクティブな情報マネジメントに慣れてしまうと、「覚えておかなくても(つまり第1の脳に情報を格納しておかなくても)、必要な時にまたググれば良い」という意識になり、同じ情報を何度もググることにもなってしまいます。
これ、実は私自身もその傾向があるから言っているのです。
皆さんも同じようなムダな経験、ありませんか?
そしてこのデメリットは非効率性だけではありません。
情報はそれ単独で意味を持つだけでなく、他の情報との関係性によってより大きな意味を持ちます。
それはまさにインターネットのハイパーリンクが体現しています。
つまり「必要に応じてググって“ピンポイント”に情報に辿り着く」というやり方は、情報と情報の間にある様々な関係性を、バッサリとちょん切ってある情報の1面だけしか見ないということなのです。
なんともったいない情報の見方をしているのでしょうか。
さて、「安易にググる」リアクティブな情報マネジメントの危険性がご理解いただけたことと思います。
もちろんgoogleやWikipediaは素晴らしいツールです。私も無くなったら絶対に困ります。
しかし、あまりにもこれらに依存することは、我々の「考える」という作業における効果と効率の両面で問題があることを、少なくとも認識すべきだと思うのです。
ではプロアクティブな情報マネジメントは、どうすれば実現できるのでしょうか。
まずは「世の中に自分と自分の仕事に関係のない情報など無い」という意識を持つことでしょう。
一見関係なさそうでも、前述の通り情報と情報はリンクしていますから、実はかなり役立つ情報は意外と多いものです。
たとえば興味の無かった新聞の家庭欄や、テレビの芸能情報に、仕事に役立つ情報が隠されているかもしれません。というか、そういうは誰しもしているはずです。私のこのエントリーやこのエントリーなどもその事例です。
つまり漫然とテレビや新聞、Webサイトなどのメディアに触れるのではなく、常に自身の仕事や生活に活かせる情報か否かを選別しながら、メディアに対峙するのです。
たとえて言えば同じ景色を見るにしても、漫然と「キレイだなー」と見るのではなく、ハラをへらしたライオンやイヌワシのように「どこかに獲物はいないか?」という見方をするのです。
まあ始終これをやっていたら疲れてしまいますから、気を抜くところでは抜かなければいけませんが(笑)
そして次に私がお薦めしたいのは、「メモをとる」ことです。
たとえばWikipediaで調べたら、その中の重要項目だけでもメモるのです。
この時、パソコン上でコピペしてはいけません。
必ず「手書きで」メモりましょう。
自分の手で書くことで、それが記憶として定着しやすくなります。
ということで本日は自分への戒めも兼ねて、「安直にググらない」プロアクティブな情報マネジメントについて語ってみました。
思考力のことだけ考えれば、今さら無理とは思いますが本当は「ググらないのが理想的」なのかもしれませんね。
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劉 慶紅
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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