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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2010年02月19日

コンフリクト・メイキングの重要性

ファシリテーションにおける大きなテーマに、『コンフリクト・マネジメント』があります。
コンフリクト、つまりコミュニケーションにおける対立や衝突にどのように対処すべきかは、確かにファシリテーターにとっては重要なテーマです。
感情的な対立であればクールダウンのために休憩を取るのも良いでしょう。
お互いの立場の違いが双方認識していないためのコンフリクトであれば、ファシリテーターが間に立って立場の違いを明確化し、相互理解を促すという手もあるでしょう。
また、論点のレイヤーが低い部分で利害関係がトレードオフであることが原因であれば、お互いの共通となる上位目的が存在すること、つまり「対立していても想いは同じ」ことを提示してあげることで、コンフリクトを少なくとも緩和することはできます。
しかしながら、起きたコンフリクトを解消・緩和させたり、またコンフリクトが顕在化しないように予防することがいつも正しいとは限りません。
一般的に我々日本人はコンフリクトが苦手です。
コンフリクトが目の前で起きれば嫌な気分になりますし、「なんとかこの場を丸く収めよう」という意識が働きます。
しかしこの意識こそが、組織においてしばしば見られる『事なかれ主義』の温床となり、結果的にあるべき姿への変革を阻害しているのです。

私のある友人は、今大変な状況にあります。
金食い虫であり、旧態依然としたある組織の変革を任され、大規模な配置転換やアウトソーシング、そして業務の改革を断行中です。
風当たりも強く、ぬるま湯に慣れきった反対勢力は様々な妨害工作を行ってきます。
まさにコンフリクトの嵐が吹きまくっている状況の中心に彼はいるわけです。

話は少し飛びますが、昨日・一昨日で行った某社の部長研修で、私は組織内/組織間のコンフリクトへの対処についても講義の中で触れました。
対立する思惑の間でどう折り合いを付けるか、冒頭でご紹介したような様々な具体的なコツを含めて紹介し、ケースを使って具体的に考えていただきました。
しかし最後で私はこう言いました。
「こうしたやり方でコンフリクトを解消、緩和することは大事です。しかし、コンフリクトを恐れているだけでは組織は前例踏襲の守りに入ってしまいます。だからコンフリクトを恐れないでください。何かを変えるべきと思うのなら、あえてコンフリクトを創り出してください。コンフリクトを伴わない変革などありえないのですから」

前述の友人の状況は、まさにこれだと思うのです。

攻めであれ守りであれ、行動には必ず受益者と被害者が存在します。全てのステークホルダーにとって正しい行動などないと言って良いでしょう。
円高で輸出企業は打撃を受けますが、海外旅行は安く行けます。
会社を存続させようとすれば、固定費削減のためにリストラされる人が出てきます。
選挙を優先させるのであれば、連立した意見の異なる政党の話にも耳を傾けざるを得ません。
一生懸命勉強して大学に受かれば、他の誰かが落ちます。
美味しいものを食べようとすれば、牛や豚を殺さなくてはなりません。
みんなにいい顔などできないのです。
だから「行動する」とは、「誰を笑顔にして誰に泣いてもらうか」を決めることなのです。
組織についても同様。受益者の方が多く、またそれが組織の上位目的に合致するなら、被害者には泣いてもらうしかありません。
感情論は否定しませんが、「かわいそう」のヒトコトで、厳しい選択をあえて行った人を非難することはやってはいけません。
何も考えずにコンフリクトを起こしてしまうのは浅慮と言われても仕方ありませんが、コンフリクトを見越した上でより正しいと思うことを実行するのであれば、私はその行動を支持します。
特に『変革』においてコンフリクトは不可避です。
いや、コンフリクトを起こすこと、つまりコンフリクト・メイキングそのものが変革の手段となる場合も多いはずです。
あえて組織内に波風を起こしてみる。
「なんでそんなことをやるんだ」
「今までのままでいいじゃないか」
反対派は声を上げるでしょう。
しかしそこから議論が始まります。
反対派もアタマの固い人ばかりではないでしょうから、変革の意義が理解できれば協力者も現れます。
現に私の友人もここまで十分な準備期間をおいて、その組織のトップと議論を重ねてきたからこそ、具体的な行動を起こす権限を手に入れたのです。
あなたは何を変えたいですか?
そのために起こさなければならないコンフリクトは何でしょうか?
私も考えてみました。
実はあるワークショップが不調に終わり少し凹んでいたのですが、その原因に私の「無難にやろう」という意識があったことに気づきました。
他のワークショップでは言えていた、「そんなんじゃ全然面白くないし、従来の延長線上でしかない」となぜ言えなかったのか。
なぜかコンフリクトを恐れて、私自身が『事なかれ主義』に陥っていたように思います。
私がやりたいのは「会社を変えたい」と思っている人を、もっと賢く・優秀な人に変えること。
そのためには「全然ダメ!」「なんだとー?」というコンフリクトを起こさなくてはならなかったのです。
そのことに気づかせてくれた友人に感謝です。
最後に自戒の意味も込めてもう一度言います。

何かを変えるべきと思うのなら、あえてコンフリクトを創り出してください。
コンフリクトを伴わない変革などありえないのですから。

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