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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2010年04月09日

「ロジカルシンキングはもう古い」って?

1年前、ある人に言われました。
「まだロジカルシンキングなんて言ってるの?」
私はこう答えました。
「重要なことに古いも新しいもありませんよ」


しかし「ロジカルシンキングはもう古い」と言いたい人は、意外に多いようです(笑)
「ロジックで理詰めに考えるとみんな同じ答になる。今求められるているのは斬新な発想をするためのラテラルシンキングだ!」
とか
「ロジックツリーで要素分解して単純化できない現代の複雑な問題を解決するには、要素間の関係性に着目したシステムシンキングが必要!」
とか
「ロジックだけでは人は動かない。物語仕立てでイメージをふくらませるナラティブシンキングがこれからのトレンド!」
などなど・・・
私も時々こうした『トレンドの思考法』について質問されるのですが、いい機会なので本日は私自身の見解を明確にしておきたいと思います。

さて、上記のようなことを言われる方々の、トレンドを創って(or トレンドに乗って)本やセミナーで一発当ててやろうという気持ちは、(私も立ち位置的には同類ですから)理解できなくもありません。しかしながら、そもそも「新しい概念こそ正しい」という姿勢が“非論理的”であることを理解すべきでしょう。
私が反論したように、「普遍的に重要な概念に対して、古い/新しいを論ずることは無意味」なのです。
もちろん良心的な人や本も多く、そういう人や本はロジカルシンキングと○○シンキングの使い分けや組み合わせをちゃんと解説してくれています。これに関しては全く問題ありませんし、私もどんどん学ばせていただきたいと思います。

さて、そもそも「ロジカル=論理的」と和訳できるわけですが、この“論理”を辞書で引くと、
————————————————————-
(1)思考の形式・法則。議論や思考を進める道筋・論法。
(2)認識対象の間に存在する脈絡・構造。
                   <大辞林 第二版 より>
————————————————————-
であることから、“論理的思考”とは「様々な情報(認識対象)の間の関係性(脈絡・構造)を明らかにしながら、あるルール(道筋・論法)に則って考えること」と定義することができるでしょう。
(ちなみに“論理的思考”には哲学・論理学・言語学などの立場に立ったアカデミックで堅い(要するにわかりにくい(笑))定義も存在しますが、ここでは一般論としての“論理思考”について考えていきたいと思います)
さらにわかりやすく整理すると、論理的に思考するためには、
(1)漠然とではなく、考え方をしっかり意識して考える。
(2)個々の情報と情報の間にどのような関係があるのかを意識して考える。
のふたつを満たしていることが条件だと言えるでしょう。


では、この観点で先ほどの「ロジカルシンキングは古い」という3つの主張を見ていきます。
「ロジックで理詰めに考えるとみんな同じ答になる。今求められるているのは斬新な発想をするためのラテラルシンキングだ!」
ラテラルシンキングとは“水平思考”の意で、「ロジカル・シンキングのように同じ観点で掘り下げるのではなく、違った観点、違う側面からの思考を水平に移動させる思考法」と説明されています。
しかしロジカルシンキングの代名詞とも言えるロジックツリーは、あるイシューをいくつかの観点に分けて考えるツールです。一本道で掘り下げているわけではありません。
またロジカルシンキングのプロと言えるコンサルタントが、ロジックツリーとともに多用するマトリクス(PPMやSWOTなどはその代表例)は、まさに複数の観点(2本の軸)で対象を多面的に見るためのツールです。
実際、マトリクスをラテラルシンキングのツールとして紹介している本もありますが、ロジカルシンキングのツールとして紹介している本(私の著作である『論理思考のレシピ』もそう)もあるのです。
次に行きましょう。
「ロジックツリーで要素分解して単純化できない現代の複雑な問題を解決するには、要素間の関係性に着目したシステムシンキングが必要!」
「要素間の関係性に着目」と述べている時点で、ロジカルシンキングの条件のひとつを満たしています(笑)
また、システムシンキングでは思考ツールとしてシステム図を活用しますが、こうして「しっかりした考え方がある」ということで、ふたつめの条件も満たしています。
さらに言うと、このシステム図とは要素間の因果関係に着目した図解思考ツールであり、この因果関係図も(私の・・・以下略)いくつかのロジカルシンキングの本で紹介されています。
では最後です。
「ロジックだけでは人は動かない。物語仕立てでイメージをふくらませるナラティブシンキングがこれからのトレンド!」
これは確かに前ふたつのように「ロジカルシンキングの一種では?」とは考えにくいかもしれません。
登場人物のキャラクターや考えを感覚的に理解しやすい物語という形式を用いるナラティブシンキングは、“論理的”の反対語である“情緒的”思考の活用とも言えますから、ロジカルシンキングでは思いつかない答えが期待できます。
事業戦略論の1方法論であるシナリオプランニングも、複数の未来を物語形式で想定し、それに対応する戦略を考えます。私も今勉強中です。
ただ、ドラマや小説の相関図を思い出せばわかるように、登場人物の相関関係という関係性に着目しなければ、この思考は行うことはできません。
その点においては、ナラティブシンキングもロジカルシンキングの要素を含んでいると言えるでしょう。


さて、こうして一連のトレンドの思考法について見ていくと、世間には「ロジカルシンキング=ロジックツリー」という誤解があることに気づきます。
ロジックツリーは単なるツールです。それ以上でも以下でもありません。
精緻なロジックツリーを作ることが重要なのではなく、ロジックツリーを使って広く・深く考え、たくさんの良い答えを導き出すことが重要です。
これはロジックツリーに限りません。
システム図もマトリクスも相関図も、同じ「論理構造を可視化して考えるツール」です。
そしてその上位概念である『○○シンキング』も同じです。
思考力のネーミングなどどうでもいいのです。
実のところ、私も「ロジカルシンキングの講師です」と名乗ってはいますが、このロジカルシンキングという名称にはさほどの拘りはありません。
私のロジカルシンキングのセミナーや研修には、今まで述べてきたようにシステムシンキングやラテラルシンキングの要素が既に含まれています。“ロジカルシンキング”が知名度が高いため、タイトルに使っているに過ぎません。
乱暴かもしれませんが、私の個人的なロジカルシンキングの定義は「様々なツールを活用し、手を抜かずに考え抜く」ことなのです。
ですから私は、これからも出てくるであろう様々な『トレンドの思考法』のエッセンスを学び続けます。
そして私の“ロジカルシンキング”にそれを取り入れていきます。
重要なのはセミナー/研修の参加者が「それを学ぶことで何ができるようになるか」なのですから。

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