ファカルティズ・コラム
2010年09月01日
ポジティブな指導とネガティブな指導
以前、研修をオブザーブしていた慶應MCCのスタッフから、「ネガティブな指導が多いのが気になる」とフィードバックをもらったことがあります。
「これが理想の姿です。それに近づくためにこうしましょう」と『目標提示→課題の明確化→具体的テクニックやツールの紹介』を行うのを“ポジティブな指導”だとすると、私の場合は「これがダメな典型例です。なぜこれがダメかというとこういうことで、だからこういうことはやってはいけません」というダメ出しが多い“ネガティブな指導”をする傾向があるとのことでした。
ちょっとショック(笑)
多少自己弁護(笑)させていただくと、私がその時ポジティブな指導をしていなかったわけではありません。
また、個人/グループ演習に対してコメントする際に「こんなのダメ」と揚げ足取りをしていたわけでもありません。
以前から参加者の意見やアウトプットに対しては、一度受けとめた後に「でもこう考えるともっといいのでは?」と指導するよう心がけていますのでご安心を。(って誰に言っているんでしょう?(笑))
ただ、「気になる」くらいネガティブな指導が多かったのでしょうし、そういう印象を与えることで参加者から反感を買い、結果的に大事なメッセージを受け取ってもらえないとしたら、それはもったいないことです。
ですから私も反省し、その後は努めてポジティブな指導をするようにしています。
しかしながら、最近あるきっかけからもう一度このポジティブな指導とネガティブな指導について考えるようになりました。
「本当にポジティブな指導の方が『正しい』のだろうか?」
そのきっかけはまたもTwitterでした。
仕事柄コンサルタント・コーチ・カウンセラーの方々を多くフォローしている私のタイムラインには、それはそれはポジティブな指導とも言えるツイートがたくさん流れてきます。
私自身もそこから気づかされたり勇気をもらったりしているので、とてもありがたいツイートではあるのですが、ふと疑問を感じることもあります。
「ポジティブに道を示し、励ますだけでいいのだろうか?」
思うに、ポジティブな指導とネガティブな指導は、「相手に与える感情的なイメージ」だけでなく、もっと本質的な違いがあります。
それは『機能の違い』と『(機能が異なることによる)活用方法の互い』です。
メタファーで考えてみましょう。
研修やセミナーで学び、それを実務に活かすプロセスを、「川を舟で下って海に出る」プロセスに置き換えた場合、「めざすのはあっちだ」「さあここで○○しよう」といったポジティブな指導は、舟に搭載された“GPS内蔵のナビゲーションシステム”としての機能を有すると言えるでしょう。
それに対し、「そっちに行ってはダメ」「○○すると××になってしまうよ」というネガティブな指導は、間違った方向に行かないための“川の土手”のような機能だと思うのです。
さて、この“ナビゲーションシステム”と“川の土手”には、それぞれメリットとデメリットがあります。
ナビゲーションシステムは「進むべき方向と進み方」を明確に示してくれますから、あまり悩む必要がありません。
研修やセミナーに話を戻すと、「仕事のある状況において何をどうすればうまくいくか」を示してくれるのと同じですから、悩まずに知識やスキルを使うことができる、つまり効率的で即効性が高いのが、ポジティブな指導のメリットと言えます。
しかし川を下る途中にどんな事態が発生するかをナビに網羅して登録するわけにはいきません。
天候の急変もあり得るし、地形もナビに登録されて時から変わっていないとは言い切れませんから、ナビだけに頼る(これは自動車の場合も同じですね)のは危険です。
研修やセミナーも同じで、ビジネスにおける様々なシチュエーションを全てコンテンツに盛り込むことなど不可能です。だからどうしても最大公約数的な場面を想定し、「こういう時はこうしましょう」と指導をするわけですが、これだと「それ以外のシチュエーションではどうしたら良いかわからない」という人が出てきます。
それを避けるため一般化・抽象化したシチュエーションで説明したりもするのですが、具体性が薄れてしまうことでかえって実務で活用しにくくなるなど、なかなか難しいところがあります。
では、これが“川の土手”、つまりネガティブな指導だとどうなるでしょう。
デメリットは効率の悪さです。
「ここからこっちには行っちゃいけない」、つまりダメな例を具体的に挙げて指導するということは、結果的に「それ以外のことをやろう」と指導していることになります。
その分自分の頭を使ってやるべきことを考えなくてはなりませんから、どうしても時間がかかります。「やれと言われたことをやる」方が我々は楽だからです。
結果的に学んだ後の試行錯誤も多くなりますから、実務への即効性という点ではポジティブな指導に劣ると言えるでしょう。
しかし反面、ポジティブな指導の弱みある『応用性』についてはこちらの方が優れています。
「やっちゃいけないこと以外はやっても良い」というのは、それだけ「自由度が高い」というメリットととらえることができるからです。
さて、もうお気づきだと思いますが、要するにポジティブな指導とネガティブな指導は、どちらが正しいということではなく、どちらも必要なのです。
川を下るためには、土手がちゃんと整備されていることも大事だし、GPS内蔵のナビゲーションシステムもあった方が確実によいのです。
川幅が狭い時は土手に気をつけながら進み、川が二叉に分かれているところに来たらナビで進むべき方向を選択すればよいのです。
要は使い分けとそのバランスです。
さて、今回は私へのフィードバックから、ポジティブな指導とネガティブな指導について考えてきたわけですが、これは講師という仕事だけを想定していません。
ましてや、「だからこれからもネガティブな指導も(バランス考えるけど)続けるぞ」とフィードバックしてくれたウチのスタッフに反論するために長々と述べてきたわけでもありません(笑)
皆さんも、部下・後輩、そして我が子など、様々な相手を指導する立場にあるはずです。
そこでご自身を振り返ってみてください。
あなたは、ポジティブな指導とネガティブな指導、どちらを行う傾向が強いですか?
「ああしろこうしろ」と言うタイプと「あれはダメこれはダメ」と言うタイプ、やはり人間ですから癖があるはずです。
また、意識せずともこの2つをバランスを考えて使い分けている人などほとんどいないでしょう。
だからまずは自分のタイプを認識しましょう。
そして意識的に逆タイプの指導もやってみましょう。
慣れてきたら使い分けてみましょう。指導する相手のキャラクターによっても、どちらが向くかは違うはずです。
皆さんの指導力のアップは、人材育成にも繋がります。
研修の講師だけでは人材育成はできません(笑)
これからも協力していきましょう!
ちなみに今回はポジテイブな指導を心がけた書き方をしてみました(笑)
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稲盛経営哲学に学びながら、人間性を尊重し、利潤追求と社会貢献の統合をめざす経営学理論を構築する、新論が真論となり、不易流行の経営学として結実することを目指して。
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福澤 克雄
(株)TBSテレビ コンテンツ制作局ドラマ制作部、演出家・映画監督
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