KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2011年08月05日

こんな時だからこそ『選択の自由と責任』を考える

仕事にしろプライベートにしろ、私たちは常に様々な選択を迫られます。
「今日のお昼ご飯は何を食べよう?」
「仕事辞めちゃおうかな…」
緊急度と重要度の違いこそあれ、日々こうした様々な問いを立て(時には与えられ)て、何かを選択しながら私たちは生きています。
そして選択の後でしばしば行うのが、「この選択は正しかったのか?」というリフレクション。
しかし、次に同じような選択機会があるならこのリフレクションは意味を持ちますが、その機会がなさそうならこれは時間の無駄です。
まさに『覆水盆に返らず』。
であれば、その選択の正誤という結果をリフレクションするより、「選択の仕方は適切だったのか?」と選択のプロセスをリフレクションした方が、今後の選択のために有効ではないでしょうか。

「涙ながらの熱い」主張にほだされた安易な選択。
「みんながやっている(言っている)」という人任せの選択。
「やってられるか!」という一時の感情での短絡的な選択。
確かに何を選択しようが個人の自由です。
しかし、これらの選択はあまりにも「頭を使っていない」選択であることは自覚すべきだと思うのです。
そしてどうも今の我が国おける、政府・メディア・企業・個人の選択とその結果としての主張や行動に、その傾向が強いように思うのです。
確かに今は大変な時期です。
進まない震災からの復興、放射能汚染、円高、そして混迷を極める政局と、「何もいっぺんにこれだけカオスにならなくても」と言いたくなるほどの状況です。
みんなが右往左往しています。
だからこそ、こんな時だからこそ冷静に「頭を使って」選択すべきです。


今回は、そのひとつの例として私のメールをご紹介します。
これはある知人からの「息子を転校させるべきか否か」という相談に対して、私が書いたものです。
内容を変えない範囲で再編集してここに提示します。
皆さんの『選択』に対して少しでもご参考になれば幸いです。


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実は我が家も少し近い状況でした。
我がムスメは私立の中高一貫校に通っていたのですが、突然「高校から県立高に行きたい」と言い出しました。
それも年一回の三者面談の席で(笑)
「高校受験で苦労させたくないからそこそこの進学校である今の学校に入れたのに!」と我が奥方はは半ばパニック。友達も多く、演劇部では部長も務めていましたので人間関係は全く問題ないのですが、どうも伝統的な女子校の閉鎖性に嫌気が差したみたいです。
また、自身の夢もあって、時間や文化の自由度の高い高校に行きたいらしい。
私に似て(笑)割り切りが良すぎるので、「そうだ辞めよう」と思ったら後には引かない。
結局私の判断でムスメの意思を尊重し、今の学校を中学まででリタイアし、高校受験をすることになりました。
さて、ただこの判断をするにあたって私がムスメに言ったのは、「選択したからにはこれからどうなろうと人のせいにするな」ということです。
事実、受験に失敗しても元の学校には戻れません。辞めると言った以上は事実上の高校受験である到達度テストを受けさせてもらえないからです。
退路は断たれているわけですね。
だからこの判断をする前に、ムスメには残る/辞めるという二つの選択肢のメリットとデメリットを書き出させました。
『今の学校を辞めて受験する』という選択肢を選ぶなら、『今の学校に残って高校生活を全うする』という選択肢のメリットは「全て捨てる覚悟を決める」ことが必要だからです。
それが上記の「選択したからにはこれからどうなろうと人のせいにするな」という発言になるわけですね。


私の専門でもある戦略論では、「戦略とは選択である」とよく言われます。
戦略とは多くの選択肢から「どれかを選んでそれに賭ける(企業であればヒト・モノ・カネの経営資源を集中投資する)」ことを意味します。
だから別の言い方をすれば、「戦略とはやらないこと、および捨てるもの・諦めるものを決めること」なのです。


精神的にまいっている君の息子に、私のムスメと同様の「捨てる覚悟」を強いることが適切かどうかはわかりません。
しかしながら人は誰でも、そして常に「選択肢の中から選ぶ」という行為から逃げることはできません。
それは私たちのこのつながりの仲間達も同様です。みんな某かの選択をし、何かを捨てて(諦めて)きたはずです。
ただ、実はもうひとつ「決めない(結論の先送り)」という選択肢もあります。時間に解決してもらうというやり方なわけですが、これは実は最もハイリスクな選択肢です。当初は予想もしていなかった別のデメリットが顕在化することも多いからです。
理屈っぽくてあまり参考にならないかもしれませんが、どちらにせよ『残る/転校/結論の先送り』からひとつを選択しなければなりません。
それも限られた時間の中で。
いや、「どれでも選んで良い」と彼には言って上げる方がいいかもしれませんね。
ただし、まず『各選択肢のメリットとデメリット』は一緒に考えることをおすすめします。
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何を選択しようが、究極的には個人、そして組織の自由です。
しかし選択したら、その結果に責任を取るのは個人と組織の義務です。
私自身も、今一度肝に銘じたいと思います。

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