KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2007年04月04日

“アコモデーション”を目指そう(後編)

前回のエントリーでは、組織で仕事を進める際に必ず発生するコンフリクトへの対処として、“アコモデーション(異なる世界観の同居)”という概念をご紹介させていただきました。
そして次に課題になるのが、「どうやってアコモデーションを実現するのか」です。
たとえば会議で対立している二者がいるとして、そこで「おふたりとも一歩ずつ妥協しませんか?」と仲裁するだけでは、ふたりの異なる世界観を同居させたとは言えません。結果アウトプットが妥協の産物になれば、どこぞの国の某法案のようになってしまう場合すらあります。
ここで私自身は、『上位レベルと下位レベルの両面作戦』が有効だと考えています。
さて、前回私はアコモデーションについて、「時にはぶつかりつつも良好な、一つ屋根の下の嫁姑関係」というメタファーで表現しました。
そこで今回も、再びその『嫁姑関係』メタファーを使って、具体的にその両面作戦を説明してみたいと思います。


東京郊外のとあるマンション。
その一室の昼下がり、そこの奥さんとお義母さんがなにやら揉めているようです。
「お義母さん、今日の晩ご飯なんですけど」
「そうね、今夜はヒロシ(息子)の好きなカルボナーラとクラムチャウダーにしようかと思うんだけど」
「そんなカロリーの高い…健康診断でもメタボリックシンドローム予備軍として指摘されたみたいですから、私は蒸し野菜とカレイのソテーにしようかと思ってたんですが」
「ヤスコさん、そんなのダメよ。あの子が好きなのはねえ…」
「私は彼の体を心配して言ってるんです!」
「まあ、なんて嫁かしら。だいたいアナタは…」
えー、ここまでステレオタイプなやりとりがリアルどうかは別として(笑)
このコンフリクト、「何を作るか」で揉めているわけですが、どうしたらアコモデーションさせることができるでしょうか。
まず『上位レベル』というのは、意見の対立がある場合に「各自の目的(なぜそう主張するのか)を上位に遡って、合意できる共通点を見つける」方法です。
このケースで言うと、確かに「何(What)を作るか」という点については対立しているわけですが、では「なぜ(Why)それを作りたいのか」という上位目的に遡っていけば、結局は「ヒロシ(夫/息子)のため」という共通点が見えてくるはずです。
ここで誰かがそれを指摘してあげれば、「そうねえ、確かにヤスコさんもヒロシのことを大事に思ってくれているわけだし」「じゃあお義母さん、彼の好きな材料で体にいいものを考えましょうか」となるもしれません。
次に『下位レベル』ですが、これは「意見は対立してますが、まずこれをみんなでやることに異議はないですよね?」という“行為レベルでの合意関係”を成立させる方法です。
方向性や結論の合意ではない、というところがポイントで、対立は残したままで「とりあえずどのような(How)ことができるのか」という一点において合意を取るわけです。
だからと言ってこのケースで、「まずはお掃除をしましょうか」では、単なる対立の棚上げかつ論点ズラしでしかありません。
この場合は、たとえば「まずはおふたりの提案メニューの材料をリスト化してみませんか?」という介入なら適切でしょう。
そして、この『上位レベル/下位レベル』は単独ではなく、組み合わせることによって、よりアコモデーションに近づきます。
下位の行動レベルの提案が上位目的に繋がる内容でなくては、人は納得してくれませんから。
たとえばこんな感じです。
「まずはおふたりの提案メニューの材料をリスト化してみませんか?」
  ↓
「結局おふたりともヒロシさんのことを思ってのメニューですよね?」
  ↓
「ではこのリスト、各素材をヒロシさんの嗜好と健康の2つの視点で、それぞれ5段階評価してみませんか? そして点数の高い材料を組み合わせてできるメニューを考えたら?」

まあ嫁姑としての感情面(いままで溜めた不満等)もありますから、ここまでうまくいくかは疑問ですし、だいたい誰がこんな介入をしてくれるんだという指摘もおありでしょうが、アコモデーションのポイントはご理解いただけたかと思います。
ここでは身近(そうでもない?)な嫁姑に置き換えてお話ししましたが、皆さんの日常の会議や打合せにおいても、きっと使えるはずです。
どんなに対立していても、「会社のためを思っての発言」は共通していたり、何か一緒にできることは必ずあるはずです。
それが組織というものであり、組織で働くということのはずですから。

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