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ファカルティズ・コラム

2012年09月07日

『時代認識』について考える

WBC(World Baseball Classic)への日本代表、通称侍JAPANの出場が決定しました。
前回、前々回の優勝に快哉を叫んだ一人として、大変嬉しく思います。
今回の紆余曲折についてはここでは論評しませんが、ある野球解説者の「WBCで優勝してもプロ野球の観客動員数、そしてテレビ中継は増えなかった」「だからまずはプロ野球の人気向上がWBC参加より大事」という人がいました。
しかしそれは認識不足と言わざるを得ません。
確かに現実として定量的なWBC効果は見えないかもしれませんが、「WBCで優勝しなかったらもっと野球人気は落ちていた」と考えることもできるはずです。

今はサッカーなど他のスポーツ、そしてゲームやインターネットと、私たち(当然子供たちも)のエンターテインメントにおける選択肢は以前より格段に増えています。
これは言い換えれば「野球の競争相手が増えている」ということであり、さらにサッカー人気を見てもわかるように、競争相手の実力も上がっています。
前述の野球解説者は、こうした現在の競争環境がわかっていない、つまり時代認識ができていないのです。
時代認識に必要なのは、過去の経験にとらわれずに現実を正しく見ることです。
安易に「昔は良かった」と考えずに。
そんなことを考えていたら、これと似たケースがあったことを思い出しました。
–<以下回想>—————————————–
前職の同期たちとの飲み会の席上、一人が私にこう言いました。
「研修の仕事をしているお前には申し訳ないんだけど、研修で人材の質は上がるのかなあ」
私は「やらなかったらどうなると思う?」と言いかけましたが、やめてこう尋ねました。
私:「どういうこと?」
友:「いや、昔と比べて研修の数、というか種類が増えてるだろ? 俺たちが入社した25・6年前はロジカルシンキングとか無かったろ? マーケティングや戦略論なんかも一部の人間にしかやってなかったし」
私:「確かにそうだね」
友:「でもさ、先輩たちの見よう見まねとか上司から怒られたりとかで俺たちはそれらを身につけてきたわけじゃん?」
私:「いわゆるOJTでね」
友:「そうそう。でさ、OJTだけだと習得に時間がかかるし、配属部署によって育成度合いに差が出るから研修で、というのはわかるんだよ」
私:「そこまでわかってて質問するわけね(笑)」
友:「悪い(笑) で、そうして研修に出た若い連中が、あの頃の俺たちよりレベルが高いかというと・・・そうは思えないんだよ」
私:「うーん、俺は今の若手って昔の俺たちよりレベル高いと思うぞ」
友:「事業戦略やマーケティングの研修受けて、商談の勝率が格段に上がったとかヒット商品を連発したってこともないし」
私:「そりゃあ他社も頑張ってるからね」
友:「あ」
–<以上回想>—————————————–
再現ドラマもどきはこれくらいにしておきます(笑)
さて、もうお気づきだと思います。
人材育成というテーマだけでなく、どの企業も、そして組織の構成員である社員達も、以前に比較すればレベルは上がっているのです。
わかりやすい例として、スポーツで考えてみましょう。
ロサンゼル、ソウル、バルセロナ、アトランタとオリンピック4大会で計9つの金メダルを獲得したカール・ルイスの100mでの自己最高記録は、1991年に東京で開催された世界陸上で記録した9秒86です。(もちろん当時の世界記録)
しかし彼のこの記録も、先日開催されたロンドンオリンピックの100m決勝タイムと比較すると、なんとか6位に入賞できるタイムでしかありません。
そしてご存じの通りロンドンで金メダルを取ったウサイン・ボルトの優勝タイムは9秒63、彼の自己最高(そしてこれまた現時点での世界記録)は9秒58です。
もちろんだからといってカール・ルイスの偉大さが揺らぐわけではありません。
現代の方がトレーニング方法やテクニック等が以前より進歩しているだけなのです。
これは陸上だけでなく、全スポーツに共通と言って良いでしょう。
今のサッカー日本代表が30年前にタイムスリップしたら、ワールドカップで優勝できるかも?(笑)
つまりスポーツであれビジネスであれ、科学的な分析やそれを基にした課題解決やトレーニングが可能な分野については、「全体のレベルが上がっている」のです。
だから「たいした効果が見えない」という理由で何かをやめたりすると、他者(他社)に置いてきぼりにされるリスクがあるということを認識すべきです。(もちろんやめても問題ないものもありますが)
ただ、他者に後れを取らないため「だけ」に、他者と同じ事を続けるのでは、永遠に勝つ(追い越す)ことは望めません。
だから「何に特化する(力を入れる)のか」が重要です。
それこそが「戦略的な○○」と呼べるのです。
スポーツも、そしてビジネスも。
さて、今度のWBCで日本はどんな戦略を取るべきでしょうか?

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