ファカルティズ・コラム
2012年11月19日
『シンプル』に走る時代(その3:メディアリテラシー編)
「ややこしい時代のややこしい状況では、人はシンプルさを求める」
今回はそのデメリット編、メディアリテラシーについてです。
では、まずはこんな問いから始めてみましょう。
「複雑なモノゴトをシンプルにするためには、何をやる必要があるのでしょう?」
そう、前回のマーケティング編でも語ったように、「何かに特化する」ことが必要です。
そしてそのために「何かを削る」ことが。
『シンプル』とは「何かを削る」ことで実現すると言えるでしょう。
それはマーケティングにおける商品開発で言えば機能であり、メディアではジャンル、言説においては対立概念を意味します。
だから日本の携帯電話はガラケーと侮蔑され、新聞や総合週刊誌は売れなくなり、ニュートラルな論客は「面白くない」と評されたり、”工作員”認定されてしまう。
マーケティングについては前回に譲り、今回はメディアと言説についてもう少し深掘りして考えてみましょう。
インターネットとモバイル端末の普及により、私たちが取得可能な情報量は激増しました。
twitterで地球の裏側の事件を既存マスメディアより早く入手でき、さらにYoutubeで現地のニュース映像を僅かなタイムラグで見ることが出来る。
全世界のWebサイトから、硬軟取り混ぜた玉石混淆の情報にいつでもどこでもアクセスできる。
さらに既存メディアであるテレビも(モバイル専用のものも含め)多チャンネル化し、私たちの『取得する情報の選択肢』は増える一方です。
本当に「知りたい(見たい/聞きたい)情報をチェックするだけで手一杯」。
だって「詳しく知りたい」というニーズにもきちんと応えるだけの情報が、すぐ手の届くところにあるのですから。
だから自身にとってプライオリティの低い情報は、必然的に削られます。
誰しも自分なりの『フィルタリングのルール』があり、そこで漉し取られた情報は意識的・無意識的にブロックされます。
多様な情報ジャンルを網羅した新聞や総合週刊誌、そしてTVのニュースは、「自分にとって不要な情報が多い」という理由で読者や視聴者が去りつつあります。
「いや、これもあなたにとって重要な情報だから載せて(流して)いるんですよ」とマスメディアがどんなに訴えようが、「余計なお世話。何が必要な情報かは自分で決めるよ」と言われれば黙るしかありません。
もちろん私たちはこうして情報の海にたたき込まれる以前から、情報のフィルタリングは行っていました。
しかしそもそも情報の量が、広さの点でも深さの点でも以前は少なかったので、プライオリティの低い情報にもアクセスする時間があったのです。
以前はフィルターの目が粗く、今はとても細かいわけですね。
ポジティブな言い方をすれば、「欲しい情報が手に入る」良い時代、ネガティブな言い方をすれば「欲しい(と個人的に今考えている)情報しか手に入らない」危険な時代。
『シンプルさを求める時代』とは、メディアリテラシー的に言えば『偏向の時代』なのです。
では、『偏向の時代』に求められる言説とは?
これはもう考えるまでもなく、偏った意見、つまり『極論』です。
右か左か、反対か賛成か、有害か無害か。
シンプルさを求める余り、こうした『極論』でないと指示してもらえない。
先鋭的な原発反対派は自分達こそが正義だと言い、別に推進派ではないのに、彼らに異を唱えた相手を敵と見なし、”工作員”とすら呼ぶ。
尖閣/竹島問題とそれに起因する反日運動を目にすることで、所謂”ネトウヨ”が増殖する。
こうした『極論を好む人達』は、同じ価値観を持った人達と「だけ」絆を結びます。
twitter、そしてfacebookなどのソーシャルメディアを通して。
そして異論に対しては、まさにtwitterのボタンひとつで「ブロック」する。
彼らに「あなたが「いらない(と思っている)」情報や、「おかしい(と思っている)」意見は、本当に自分にとって不要なのか?」と問うたところで、ブロックされてしまっては決してその声は届きません。
「後で泣きを見ても知らないよ」と言っても、それは独り言の捨て台詞にしかならないのです。
無力感に苛まますが、私たちは諦めるしかないのでしょうか。
私は常にニュートラルでありたいと思っています。
もちろん講師という職業柄、信念を持って断言しないと講義の説得力などなくなってしまいます(笑)が、それでも「自分の価値観を押しつけようとしていないだろうか?」と自問自答すること、そして耳の痛い意見にも耳を傾けることは意識しているつもりです。
シンプルに走る時代に生きる私たちは、確実に『偏向』に突き進んでいます。
同じような思想・趣味を持った人達が、閉じたコミュニケーションを行い、自分の見たい/聞きたい情報・意見だけを取り入れる。
不要な情報は「無駄」と、都合の悪い情報は「嘘だ」と切り捨てる。
自分(というより自分の好む誰か)の考えと異なる言説に対しては、「間違っている」と断じ、その後ブロックする。
こんな人が増えているような気がするのは私だけでしょうか。
あなたはどうでしょう?
「自分は大丈夫」と本当に言えますか?
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