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ファカルティズ・コラム

2013年10月31日

自動車産業の輸出データを読む

まず以下の表をご覧ください。
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これは2013年度上期(4月~9月)の、軽自動車を除いた国産自動車メーカーの輸出台数のデータです。
ちなみに社名は、国内における販売台数の順に並べてあります。
さて、あなたはこのデータから何を読み取りますか?



最初に、国内第3位のホンダの輸出が少ないのに驚いた方もいるでしょう。
これは当然、海外生産へのシフトが進んでいることを表しています。
それに対してマツダがトヨタの次に輸出が多いのは、フォードとの提携解消で、生産拠点が完全に国内メインに戻ったことが大きな要因です。


次に昨年度との比較で見てみましょう。
ここで目立つのは、やはりマツダとスバル(富士重工)。
それぞれ、前年同期比で20%以上の伸びとなっています。
他のメーカーが減少、母数の低いホンダを度外視すれば、特に日産が二桁のマイナスになっており、この2社の好調さは群を抜いています。
公式の発表によれば、マツダは1500~2000CCクラスの「MAZDA3(日本名アクセラ)」と2000~2500CCクラスの「MAZDA6(日本名アテンザ)」、そしてSUVの「CX-5(日本名同じ)」が好調とのこと。
またスバルもSUVの「フォレスター」が、北米を中心に大ヒットしているようです。


では、この2社の勢いはどこから来ているのでしょうか。
マーケティングの視点で考えると、規模から考えても価格戦略やチャネル戦略、そしてプロモーション戦略が他のメーカーを凌駕しているとは、とても思えません。
となれば、好調の要因は商品戦略にあるはず。
マツダの場合は、燃費向上と運転する楽しさを両立させた総合的技術である「SKYACTIVテクノロジー」と、「日本車でもここまでできる」と多くの人を唸らせたデザイン。
スバルは、CMでもおなじみの「ぶつからない仕組み」である「アイサイト」。
ある意味「飛び道具」であるこの技術で、「一度試乗してみるか」と一見さんを集め、「乗ったらわかるスバル車の良さ」にうまく繋げたと思われます。
余談ですが、私も「スバルねえ」と以前は考えていましたが、実家のクルマがスバル(インプレッサ)になった時に運転し、「なんと乗りやすい車だ!」と無知を恥じた経験があります。
これら、「技術のイノベーション」が、この2社の好調を支えているのは確実です。
また、輸出は微減ではありますが、トヨタには世界のエコカーの方向性を決めた「ハイブリッド」の技術があり、日産にはEV(電気自動車)の技術があります。


マツダやスバルだけでなく、日本の自動車メーカーは、このように継続的にイノベーションを生み出し、業界全体を牽引している。
この事実に着目すべきでしょう。


翻って日本の電機メーカーはどうでしょう。
ソニーの「ウォークマン」以降、業界全体に影響を与えるようなイノベーションを起こせていません。
確かに、液晶やプラズマという薄型テレビの分野では、一時期には業界を牽引したかもしれません。
しかし、それも今は昔。
韓国、中国のメーカーに家電分野では大きく水をあけられてしまっています。
ITC(情報通信)の分野でも、「日本発」と呼べるものはどこにも見当たらないのが現状です。


自動車メーカーと電機メーカー。
ここまでの差が、どうしてついてしまったのでしょう。
ひとつには、「イノベーションを起こそう」という意識の有無があるかもしれません。
自動車メーカーが、「ウチならではのクルマ作りとは」を徹底的に考え、各社が独自の技術で差別化をはかっているのに対し、電機メーカーは、家電の「サイクロン掃除機」やITCの「クラウドコンピューティング」のように、「トレンドに乗る」ことを志向する傾向が強いと感じています。
ただ、特に高度に標準化が進んだITCの分野では、技術的な差別化が難しいという点はあるでしょう。
しかし、「だから商品の差別化は不可能」ということではないはずです。
ある方は、「自動車メーカーにはクルマ好きの人が入ってくるが、電機メーカーには電化製品好きが入ってくるわけではないところに根本的な理由がある」と言っていました。
もちろん、ことはそう単純ではないでしょうが、今一度、官民挙げて「国産電機メーカーがイノベーションを生み出す仕組み」について考えるべきではないでしょうか。


さて、今回は自動車業界のデータを読み解き、そこから電機業界に照らし合わせて考えてみました。
このように、情報はそれを読み解き、様々な仮説を立てるだけでなく、それを他の分野に照らし合わせて考えると、様々な気づきがあります。
ぜひ、様々なデータをこのように考えてみてください。
以前も述べましたが、それがあなたの「ビジネスセンス」を磨くことに繋がりますから。

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