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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2013年11月08日

ブラックはグレーになっていくのか

最近のニュースで注目を集めているひとつに、「食材表示問題」があります。
また、外食産業をはじめとする「ブラック企業問題」も、社会の関心を集めています。
以前、[『選択基準の多様化』から考察する]というエントリーで、「企業の社会性が消費者の選択基準に加わった」とお話ししましたが、これらの問題も、やはり『企業の社会性』に注目が集まっている証左のひとつでしょう。
本日は、「ブラック企業問題」について、興味深い記事をご紹介します。


日経BP Onlineの[取締役にも”ブラック責任”あり]という記事です。



これは、過労死の責任について民事で争った裁判に関する記事です。
あらましをWikipediaから引用しましょう。
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2008年12月22日に、長時間の残業により24歳の従業員が過労死したとして、この従業員の両親が、約1億円の損害賠償を求め、京都地方裁判所に訴えを提起した。
原告の主張は、新入従業員を月額19万4,500円で募集していたが、その月額は80時間の残業を前提としており、それ以下の場合は減額され、最低月額は12万3,200円であった。2008年度のリクナビ求人サイトには、月額19万6,400円+残業手当と書かれていたという。
2010年5月25日、京都地方裁判所は原告の請求を認容、同社と取締役4人に対し約7,860万円の支払いを命じた。判決理由は「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」、「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」と指摘している。過労死を巡る訴訟は、会社側が責任を負うことが一般的で、取締役の賠償責任を認めた司法判断は珍しい。原告代理人の弁護士は、「上場企業の役員個人の責任が認められたのは画期的」と述べた。
この第一審判決に対して、被告大庄側は大阪高等裁判所に控訴する。
2011年5月25日、大阪高等裁判所は約7,860万円の賠償を命じた第一審京都地裁判決を支持、会社側の控訴を棄却した。従業員死亡までの約4カ月間の時間外労働は月平均100時間超で、厚生労働省が定めた過労死認定基準(月80時間超)を上回っていた。控訴審の審理において控訴人大庄側は、月100時間までの残業を認めた労使協定があり「外食産業では一般的」と主張したが、裁判所は「過大な残業が常態化し、協定でも補いきれなかったのが実情に近い」と認定し、三六協定や賃金体系の体制作りは「経営判断事項」とする大庄側の主張に対し、「責任感のある誠実な経営者であれば、自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、(中略)義務があることは自明」とその主張を退けた。
控訴人(会社側)らは2011年6月8日、控訴棄却を不服として上告し、引き続き最高裁で争われることになった。
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そして本年9月26日、最高裁で上告棄却。会社側の敗訴が確定しました。


日経BPの記事、そしてWikipediaにもあるように、本判決最大のポイントは、「取締役個人の責任を認めた点」です。
企業が裁判に臨む場合、もちろんそこには経営者や法務担当など、様々な『人(個人)』が絡みます。
しかしあくまでも、原告や被告は会社という『組織(法人)』になりますから、裁判に勝とうが負けようが、個人は賠償金や罰金、懲役などの直接的ダメージを受けません。(降格や減俸などの間接的ダメージは考えられますが)
となれば、どうしても『他人事』になりますから、そもそも裁判を起こされるような問題を「起こさないようにしよう」という意識も低くなってしまいます。


ところが、今回の裁判では、取締役個人、それも中小企業ならいざしらず、大企業のひとりの構成員が、賠償責任を負わされることになった。
さらにそれが”最高裁”で、となれば、これは今後の同様の裁判における強力な判例となるのは目に見えています。
故に、本判決の意味は重大です。
今後、過労死や解雇など、様々な労働・雇用に関して、企業と共に個人を被告とする裁判が増えることが容易に想像できます。
当然、企業もそれに対する措置をとらざるを得ません。
人事担当の役員は、真に「他人事ではない」からです。
願わくば、その措置が「法律の抜け穴を見つけて、従業員を従来通り酷使する」ものでなく、「従業員の労働環境を改善する」ものであってほしいと思います。
まあ、「こんな悲劇が起き、そして最高裁がこんな判決を出さないと変わらないのか」とは思いますが、これをひとつのきっかけとして、ブラック企業が減っていくことを期待します。
「そんなきれいごとはこの業界では通用しない」
「他社より安くするためには仕方がない」
と言いたい人もいるでしょう。
「無理も続けていたら無理でなくなる」という、全ての人に通用するはずのない持論を展開していた経営者もいましたが、本裁判を契機として『ブラックの代償』が大きくなれば、そんなことも言う必要がなくなります。
業界全体で労働環境の健全化をはかるべきでしょう。


ただ、ひとつ引っかかることがあります。
それは、本裁判の重大性を語るメディアが少ないこと。
日経BPの本記事にしても、判決から1ヶ月以上経過しています。
TVでも、そんな大きく扱っているのを、私は目にしていません。
これはなぜなのでしょうか?
個人的には、山本太郎議員の愚行に時間を割くより、よっぽど意味のある報道ができると思うのですが。

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