KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2015年09月11日

「しこうのシンクロ」で人を育てる

私をよくご存じの方ならおわかりだと思いますが、私は「日本一ムスメと仲の良い親父」を自認しています(笑)
さらに幸いなことに、そのムスメは親の欲目を抜きにしても、なかなか優秀です。(思考力とコミュニケーション力の講師である私ですら、しばしば彼女にゲームや議論で負けてしまいます)
飲み会の席などでそういった話をすると、しばしば「どうやってそんなにうまく育てたの?」と聞かれます。
そこには様々なポイントがあるわけですが、今にして思うと、ムスメに対して私が「しこうのシンクロ」を心がけていた点も大きいと思うのです。
「しこうのシンクロ」? なんでひらがな?
本日はそれをお話しすることで、自分の子供に限らず、部下や後輩なども含めた「人を育てる」ためのヒントを提示できればと思います。





「しこうのシンクロ」。
この「しこう」とは「思考」と「嗜好」のふたつを意味します。
親の方から、あるいは上司の方から、我が子や部下の「思考」と「嗜好」にシンクロしようとすること。
これが大事だと思うのです。
では、まずは「思考」から。


「だって色が嫌いなんだもん!」
たとえば着ていく服を選ぶとき、子供はこんなことを言ってだだをこねます(笑)
そして親はといえば、
「わがまま言うんじゃありません!」
などと権力によって言うことをきかせようとします。
子供は嫌々従うかもしれません。しかし、これでは親に対するリスペクトは生まれない。
だから私は面倒くさくてもこうしていました。
「色? 色がどう気に入らないの?」
「嫌いなの!」
「いや、それだとパパわかんない。なんでこの色が嫌いなの? ちゃんと説明してくれて、パパも「そうか」とわかったら、別の服にしようね」
「うーんとね…」
本当に色の問題かどうかはどうでも良いのです。
重要なのは、一度はムスメの思考の「切り口」に乗っかってみること。同じ土俵で考えることです。
そこから彼女なりの考えが出てきたら、それに「なるほどねえ」と感心してみせ、「じゃあ今度は形についてはどう思う?」とやる。
私が意識していたのは、「常に考える癖をつけさせる」こと。
そして考える切り口については、「最初は相手の切り口に乗っかり、次に別の切り口を提示する」こと。それが彼女の思考力にプラスになると信じていたからです。
これ、部下や後輩を育てることにも応用できます。
「時間がなかったので…」という言い訳に、「言い訳すんな!」と返しては、やはり権力で言うことをきかせることしかできません。
「何に時間を取られていた?」から「じゃあ、どうやったらこれからそれに時間を取られないようにできると思う?」と続ければ、建設的なやり取りができます。
そしてそれは、部下や後輩の考える力を鍛えることにもなり、上司へのリスペクトにも繋がります。


では次に、「嗜好」のシンクロとは何か。
今でも、私はしばしば(ハタチ過ぎの)ムスメとオタク談義をします。
その中では、私がよく知らないアニメの話題も出てきます。
ムスメは大学で心理学を専攻しており、心理学の視点から作品を分析します。
そんなとき、私はよくこう言います。
「へー、そうなんだ。父ちゃんも見てみようかな。もっと教えてよ」
我が子や部下が語る、自分が知らないこと、興味がないことであっても、少なくとも「関心を持とうとする」こと。
これが「嗜好のシンクロ」です。
ここで重要なのが、「教えて」という姿勢です。
子供であろうが部下であろうが、自分より詳しい分野については「師匠」です。
その姿勢を持って接すれば、相手は悪い気はしません。
「よく知ってるな」「すごいなお前」「たいしたもんだ」
こうした賞賛は人のプライドをくすぐり、「もっと上へ」というモチベーションの源泉となります。
しかし親や上司には、逆立ちしてもかなわない部分がある。
これもしっかりと印象づける必要があります。
そうすることで「上下関係」と「対等な関係」のバランスがとれます。


少しばかり自慢話になってしまいました(笑)
しかし、「思考」と「嗜好」をシンクロさせることの意味はご理解いただけたでしょうか。
相手の「思考」と「嗜好」に、こちらから歩み寄る。
そうすることで、本ブログでも何度かご紹介した「返報性」によって、「自分も親/上司に歩み寄ろう」という気にもなるものです。
そして両者が歩み寄ることこそ、「育てる」だめの第一歩だとも思うのです。

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