KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2015年09月18日

『潜在的ニーズ』を見つける

「組織的な顧客ニーズへの適応活動」
“マーケティング”とは、こう定義されます。
それによって「市場の創造と維持」を行い、「売れる仕組み」をつくること。
それがマーケティングの目的と言えます。
であれば重要なのは、「適応すべき顧客のニーズを見つける」こと。当然の論理的帰結です。
では、どうやって顧客のニーズを見つけるのか?
「そりゃあ顧客のニーズ、つまり何がほしいかは、顧客に聞かないと」
はい、この考えが「間違い」です。





では、なぜこの「顧客のニーズは直接顧客に聞く」が間違っているのか。
その理由はふたつあります。


まず最初の理由は、「聞いてわかるニーズは、あくまでも『顕在的ニーズ』でしかない」からです。
たとえば東京駅で100人のビジネスパーソンに声を掛け、「どんなセミナーを受けたいですか?」と尋ねれば、確かに様々なニーズがわかります。
しかしその声は、「マーケティングかなあ」とか「財務会計の知識です」のような、「世間に既にあるセミナー」になるのは明白。
つまり、「既にわかっている(顕在的な)ニーズ」でしかありません。
これは仕方がありません。人は「自分が知らないことは答えられない」のですから。
だから直接顧客に聞いた『顕在的ニーズ』に応えても、既に誰かがつくった商品・サービスと同じものにしかなりません。
で、結局は価格で勝負するしかない。差別化などできるわけもなく、「市場の創造と維持」など夢のまた夢。
ダメなマーケティングの典型です。
だから本当に見つけるべきは『潜在的ニーズ』です。


ふたつ目の理由は、「ヒトは悪気なくウソをつく」からです。
飲料メーカーが市場調査を行い、街を歩いている誰かにこう聞いたとしましょう。
「あなたは缶コーヒーをよく飲みますか?」
さて、この問いかけに、すべての人が正直に答える保証がありますか?
タマにしか缶コーヒーを飲まなくても、「はい、よく飲みます」と答える人が必ずいます。
(私の受講生の実話です(笑))
「ヒトは相手の期待に応えようとする」のですね。
これはマーケティングの市場調査に限りません。テレビの街頭インタビューなどでも、やはりヒトは「相手が期待していることを言おう」「なんかいいことを言おう」とします。そして「小さなウソ」をつく。
でもそこに悪気はないのです。ちょっと格好をつけたいだけなのです(笑)


「顧客のニーズは顧客に聞いてはいけない」理由がおわかりいただけたでしょうか。
「じゃあ、顧客に直接聞かずに、どうやったらその『潜在的ニーズ』とやらを見つけることができるわけ?」
…えー、残念ながら「確実に潜在的ニーズを見つける方法」はありません。
そんなものがあれば、全ての企業が成功しています(笑)
だから必要不可欠なのが「試行錯誤」です。
「我が社のターゲット顧客には、こんな潜在的ニーズがあるのでは?」と仮説を立て、商品・サービスを開発して世に問い続ける。この努力が不可欠です。
もちろん失敗もするでしょう。しかし「確実に成功する」ものなどこの世にはありませんから、失敗のリスクを恐れずに試行錯誤しなければ、永遠に「トップ企業のオコボレで細々と生き残る」立場に甘んじることになります。
ただ、試行錯誤といっても、失敗したときの傷をできるだけ小さくすることは可能です。
たとえば期間や地域を限定したテストマーケティングなどは、そのためにあります。


しかし、本当に試行錯誤することでしか潜在的ニーズは見つけられないのか?
100%確実とは言えないまでも、試行錯誤による失敗確率を下げるような「潜在的ニーズの見つけ方」はないのか?
そのひとつの答が、数年前から注目されている「行動観察」です。
ヒトは悪気なくウソをつく。
しかし、言葉ではウソはつけても、カラダはウソをつけません。
たとえば洗濯や掃除のような家事。
今までのやり方が「アタリマエ」と思っていれば、多少のキツイ姿勢や動作にも疑問を持たないでしょう。
そこで「洗濯のニーズは?」と聞いても、「思いつかない」となるのは当然です。
だから「聞く」のでなく、徹底的に行動を「見る」。
これが行動観察です。
そこから「このときの姿勢が辛そうだなあ」と気づけば、そこから『潜在的ニーズ』が見つかるかもしれません。
アキレスの子供用運動靴『瞬足』は、行動観察から生まれた大ヒット商品です。
行動観察以外にも、その「モノ」になり切って演じることから潜在的ニーズのヒントを探す「擬物化法」や、別の何かに置き換える「メタファー法」など、潜在的ニーズを見つける(だけでなく、広く斬新なアイデアを出す)手法はいくつもあります。
この10月から慶應MCCでスタートする『Leap思考』では、この「擬物化法」や「メタファー法」をはじめとした「発想の跳ばし方」を取り上げます。
(宣伝くさくてすいません(笑))
様々な方法で『潜在的ニーズ』を見つけようとすること、そしてそこで見えてきた「こんなニーズがあるんじゃないか? いや、あるに違いない!」という仮説を、できるだけリスクを軽減しながらも試行錯誤すること。
今の日本企業に欠けているのは、この姿勢なのかもしれません、と言ったら言い過ぎでしょうか?

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