KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2008年04月17日

『誤変換』を考える

「馬食い家内が象サイズになった」
これは日本漢字能力検定協会が15日に発表した、パソコンや携帯電話での漢字変換ミスを集めたコンテストで、「年間変漢賞」に選ばれた作品(?)です。
「うまくいかない画像サイズになった」と入力したかったものが、冒頭のように誤変換されてしまったわけですね。
他の上位入選作にも、「講習会の出欠を確認してください」→「口臭か胃の出血を確認してください」や、「何かと胡散臭(うさんくさ)い時がある」→「何か父さん臭い時がある」、「今日居ないもんね。ゴメン~!」→「胸囲ないもんね。ゴメン~!」など、ニヤリとさせてくれるものがたくさんあります。
まあ、メールを受け取った相手としては笑って済ませられないものもありますが、もっと笑えない誤変換ネタもニュースになりました。
横浜の中学校で、3月末に配布した1年生の通知表に「計算力を向上させ魔性(ましょう)」等のミスがあったというものです。
こうなると、もはや個人の注意力不足という問題だけでなく、組織としてのチェックの仕組みも課題となってくるでしょう。
さて、この誤変換。
上記のような『ミス』だけでなく、実は『意図的な誤変換』も存在するのをご存じですか?

代表的なものが、2chから広まった「厨房」でしょう。
これは元々、掲示板上で(これも最初変換したら「刑事万丈で」と出ました(笑))子供じみた発言をした人に対して、「中坊(中学生の意)」と揶揄するところを、あえて「厨房」という誤変換のまま使ったところから始まっています。
掲示板という文字情報のみでコミュニケーションする場で生まれた、ネットスラングと言えるでしょう。
「~な奴」→「~なヤツ」→「~なヤシ(シとツが似ているため)」→「~な香具師(「やし」の変換)」も、広い意味で誤変換を使った言葉遊びのひとつです。
つまり意図的な誤変換には、こうした言葉遊びを使うことで、より軽い感じや皮肉っぽさなどを演出するという、レトリックとしての意味合いがあるのです。
また、そこでだけ通用するスラングを共有することで、仲間意識を持つという意味合いもあるでしょう。(常連と新参の識別も含めて)
ただ、伝統的レトリックである比喩や倒置法などと異なり、意図的な誤変換によるネットスラングには、流行り廃りがあります。
以前2chで文章末尾の「(笑)」を、より嘲笑度を高めるために「(藁」と記述するのが流行りましたが、今使うと「タイムスリップwww」と笑われます。(今はこの「w」(数が多いとより嘲笑度が高い)が一般的ですね)
ですから、こうしたレトリックとしての意図的な誤変換は、安直に使わず、それがどんなニュアンスを持っているのか、また既に流行遅れではないのか、を考えて使う必要があります。
そうでないと、まさに「空気嫁(これまた意図的な誤変換)」と言われてしまいますから。
そしてこの意図的な誤変換は、レトリックの他にもうひとつ別の目的を持って使われる場合があります。
それが“検索回避”です。
正しい表現(変換)をしたのでは、その言葉で検索を掛けられた場合、自分が書き込んだ文章が不特定多数の人に閲覧されてしまう。
だから意図的な誤変換を行うのです。
具体的には、著作権や公序良俗的に問題のある同人系のサイトや犯罪依頼などの裏サイト、そして昨今話題の学校裏サイトなどで、こうした検索回避を目的とした意図的な誤変換が使われているそうです。
たとえば「桑畑ってホントにムカツク!」では、『桑畑』で検索すれば見つけられてしまいますが、そこで「桑旗って~」と意図的に誤変換することで、検索を回避するのです。
また、誤変換だけでなく、「桑|畑」などと言葉を棒線で区切るなどという手段も使われています。
単に「親しい仲間内だけで不特定多数お断り」の、法的にも社会通念上も問題のないサイトであれば罪はありませんが、残念ながらそうではないケースも多いようです。
私個人としては、検索回避というネガティブな目的や、また他者を嘲笑するようなマイナスのレトリックに、誤変換を“悪用”することには抵抗があります。
しかしながら、明るく楽しいプラスのレトリックとして意図的な誤変換を使うのであれば、それはネット時代の新たな言語文化として容認すべきではないでしょうか。
そう、2chでスレ立てした人に対しての、
「 >>1 乙~♪ 」(1さん、スレ立てお疲れ様)
のような、コミュニケーション円滑化のための誤変換なら大賛成です。

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