KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2005年07月27日

Form follows emotions 中村史郎さん 日産ブランド&デザイン戦略

4月15日に高橋俊介先生の講演ではじまった今期の夕学もきょうが最終回。おおとりを飾るに相応しく、会場は約300人の受講者で熱気に満ちていました。登壇いただいたのは中村史郎さん、躍進を続ける日産自動車のデザイン戦略の責任者です。
日産自動車には世界14カ国に1000人近いデザインスタッフがいます。中村さんによれば、デザイナーを組織内に抱える人数が一番多いのは自動車産業であろうとのこと。グローバルレベルの合従連衡が急速に進む自動車業界では、例えば米国のメーカーが、ドイツの資本を使って、イギリスブランドの車を作ることが当たり前のように行われています。資本だけでなくブランドが国境を越える時代が到来しているわけです。中村さんが学ばれたアートセンターバウハウスといった世界的なデザイナー養成機関が存在する米国や欧州には多くのカーデザイナーがいましたが、いまや彼らは、活躍のフィールドを求めて世界のいたるところに散りはじめたそうです。当然のことながらブランドのボーダレス化はデザインのそれを誘因します。そもそも、その国や地域の歴史と文化に根ざした独自性を持つはずのデザインがボーダレス化する時代。そこに帰因するデザインの危機と可能性、それが中村さんのデザイン観の中軸をなす問題意識でした。


講演では、ニッサンのブランド&デザイン戦略について、そこまで話していただいていいのかというところまで具体的に紹介してくださいました。限られた紙面でその全貌をなぞることは出来ませんが、キーコンセプトは「ニッサンのDNAを守り育てるクリエイティブ」ということだった思います。ニッサンが出来て70年、デザイン部門が作られて50年、その間に蓄積されたニッサンのDNA、それを意識的に理解することの必要性を繰り返し主張されました。それは、デザインがボーダレス化する時代ゆえに失われかねない独自の価値観を守り育てることであり、ひいてはニッサンブランドの確立に繋がるという強い信念を感じさせてくれるものでした。
また、デザインとは何かというお話も印象深いものでした。デザインの世界には「Form follows function」(形態は機能に従う)という言葉があるそうです。 中村さんはこれに異を唱えます。デザインは機能を表現するたけのものではないはずだという問題意識を強く持っているそうです。ある雑誌の調査によればニッサンのキューブは最も走るのが遅い印象を与える車とのこと。特徴的な四角いデザインは平安時代の牛車にも相通ずるもので、スピードとは対極的なゆったりとした印象があります。にもかかわらず、あれだけ売れた理由は何か。中村さんはそこに、速く走ることに必ずしも価値観をおかない日本的感性の存在を見てとります。環境のためには自動車はできるだけスピードをださない方がいいわけで、だとすれば、デザインで、車は速く走らない方いいのだと思わせることもできるのではないか。それがデザインの力ではないかと力強くお話になります。実際にキューブをイギリスの街で走らせて、英国人がどんな反応をしたのかを紹介するビデオも見せていただきました。その映像には、不思議なフォルムへの驚きと興味を正直に表現しながらも、キューブの持つ独自の価値観に、確かに共鳴する英国人の姿がありました。
「Form follows emotions」デザインは気持ちを形にすること。中村さんはその言葉で講演を締めくくりました。

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