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知的な刺激、「楽しむ」の幅を広げるagora

2016年03月08日

柴原 澄夫

昨年、2つのagoraワークショップに参加した。一つは『平田オリザさんと創る【表現力を磨く演劇ワークショップ】』、もう一つは『コラムニスト小田嶋隆さんの【文章表現ワークショップ】』である。

「表現力やコミュニケーション能力を高めたい!」そんな課題意識から申し込んだのだが、一般的なスキルアップセミナーとは趣が異なるものだった。知的な刺激に溢れ、言葉や表現に対する感性が高まり、「楽しむ」の幅を広げるきっかけとなるワークショップであった。以下では、それぞれのワークショップについて、申し込み時の思い、参加して感じた事や思い出、参加後の変化について述べたい。

1)平田オリザさんと創る【表現力を磨く演劇ワークショップ】

「表現力を磨く」というキャッチフレーズに心を惹かれたものの、演劇の知識も舞台を見たことも無いことから、「場違いで一人浮いてしまったらどうしよう?」などと大人気無く心配し、実は申し込むまでにしばらく悩んだ。それでも「表現力を磨くのに演劇が効果的かもしれない」と思い勇気を振り絞って申し込んだ(そんな大それたとこではないか?)

このワークショップは、オリザさんの演劇やコミュニケーションについての話、演劇メソッドでの表現についての体感、自分たちで演劇を作り演じる創作からなる。それぞれ楽しく気づきの多い内容であったが、何といってもこのワークショップの魅力は創作である。全6回の最終回に創作した演劇をグループ単位で発表するのだが、自分にとって忘れられない思い出となった。

創作は、参加者全員で出し合ったテーマを4件に絞り、各5~6名のグループに分かれて作り上げる。各グループに劇団の役者さんも加わるという本格的なものだ。ストーリーや配役は自分たちで決めるのだが、ワイワイガヤガヤ話し合っていると、不思議なもので、メンバーそれぞれの個性が反映したはまり役となった。発表当日の朝、オリザさんによる事前チェックが気にはなったが、しっかりした台本ができていたので、後は稽古して仕上げるだけだと思っていた。しかし、オリザさんから構成の大幅変更が必要な衝撃のダメ出し! 「発表当日にこんなダメ出しするの?」と唖然となった。

何とか気を持ち直してオリザさんのコメントを意識しながら見直しを進める。すると「このセリフじゃ私は納得できない」、「この流れの方がいいんじゃないの」と意見やアイデアが出始め、だんだん自分の言葉、自然な流れに変わっていった。発表本番は、構成が大きく変わったため台本無しのブッツケとなったが、自分の言葉&自然な流れになっていたのでダメ出し前とは見違えるほど良くなった。きっとオリザさんは、メンバーの技量や残された時間も踏まえ、改善できるぎりぎりのダメ出しをしたのではないか。オリザさんの凄さを感じるとともに 達成感のある忘れられない思い出だ。

今回の参加によって表現力が磨かれたかどうかは定かでないが、言葉や表現に対してこれまで以上に意識するようになったのは間違いない。そして一番の収穫は、演劇という楽しみが加わったこと。ワークショップ終了後も、オリザさんの演劇情報や役者さんの出演情報の連絡をいただき、参加した人たちと見に行ったりして「楽しむ」が続いている。演劇という新たな楽しみに出会えて良かった。

2)コラムニスト小田嶋隆さんの【文章表現ワークショップ】

自分はこれまで文章を書くことへの苦手意識と心配性の性格から、細かいことが気になり、書くことは苦痛であって楽しいと感じたことが無かった。そんな中、agoraの案内に書かれていた『人気コラムニストがガイドする「自分らしい文章」』という表現に惹かれ、「苦手意識の克服に繋がるかもしれない」と思い申し込んだ。

このワークショップは、毎回テーマに沿った文章を書く事前課題があり、参加者が書いた文章へ小田嶋先生が講評する形で進んでいく。課題は、「ある枠の中で書く(コラムという文章)」、「手紙を書く(相手を想定)」、「思い出を書く(記憶という個性)」、「会話体で書く(表現の幅を広げる)」などで、1週間~10日で書き上げて提出する必要がある。正直に言ってハードだったが、生まれて初めて文章を書くことの楽しさを味わった気がする(ちょっと大げさか?)

なぜ楽しめたのだろうか? いろいろ要因はあったが、「小田嶋先生の講評」、「他の参加者の存在」、「締め切りというプレッシャー」が大きかったように思う。

小田嶋先生の講評は、「○○の部分は××なので面白い。ただ、終わり方が唐突で残念」とか「それぞれのエピソードにはリアリティがあって良く書けている。ただ、時系列で並べると子供の遠足作文みたいで書かされ感を読者に与えるかもしれない」など、甘辛織り交ぜたもので楽しく、次に書く上での励みとなった。

そして、他の参加者との係わりが良かった。他の参加者の作品や小田嶋先生の講評は、事前に送ってもらえたので、読んだ上で参加することができる。文章にそれぞれの個性があり、その違いが面白い。毎回ワークショップの後に懇親会もあり、自分の文章に対する感想を聞くこともできた。

何よりもクローズドな環境なので、不特定な読者の目を気にせず、普段の自分の枠を超えて冒険的な文章に挑戦できるのが楽しかった。そして、締め切りというプレッシャー。短期間でテーマを決め書いて提出というのは、負担ではあったがプラスになった。通勤の電車の中で構想を練ったり、テレビや雑誌を見ていても、これは次回のテーマに使えそうだなどと思ったりして、書くことへの感性が高まり充実した期間となった。

今回の参加による一番の収穫は、何といっても書く楽しみを知ったこと。苦手意識が克服できた訳ではないけれど、書く楽しみを知ったことは大きな前進だと思う。その証拠にこうしてこの原稿を書いている。慶應MCCのメルマガ原稿を投稿するなんて今までの自分では考えられない大きな変化だ。

最後に、参加した感想をもう一点付け加えると、2つのワークショップともいろいろな個性を持った素敵な参加者が多く、知り合えたことだけでも参加して良かった。

「面白そう」をきっかけにして、知的な刺激を受けながら素敵な仲間とともに「楽しみ」、「楽しむ」の幅を広げていく、そんなプロセスが豊かな人生を送る秘訣ではないか。agoraはこの要素に満ちた場だと思う。

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