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講演でなければ得られないもの―『夕学五十講』体験記―

2006年12月12日

鴫原真人
損保ジャパンひまわり生命保険株式会社 保険金サービス部 課長代理

多少前の話になるが、夕学五十講で講演を聴いた。演者は著名ブランドの日本法人社長で、日本法人立ち上げのいきさつとこれまでの経緯、そしてブランドとは何かについての話であった。
私はかねて氏の著書は読んだことがあり、そのブランドや日本法人の経緯については知っていて興味があったので、著者である氏の話を直接聞ける機会があれば一度聞いてみたいと思っていた。


氏は著書でもふんだんに図表や具体的説明を使ってわかりやすく書いてあったのだが、実際に講演を聴いてみると、なるほどわかりやすい話だった。聞いていて話にぐいぐいと引き込まれていった。
氏曰く、ブランドとは単に著名であることを求めてはならず、品質こそがブランドの要諦である。また、品質を追求するが故にブランドの価値が出てくるのであり、故にブランドとは品質に対する保証に他ならない、と明確かつ本質をずばり述べておられた。
著書でも同じことが書いてあったのだが、実際に著者が直接面前で話すのを聞くと、全く迫力が違う。氏のゼスチャー、聴衆とのやりとり、なるほど氏はそういうことをいいたかったのか、と水がしみ込むように理解が深まった。著書を読むだけでは決してここまでは理解できなかったであろう。学生時代はほとんど講義に出なかった私にとって、講演の持つ本当の意味をようやくわかった一件であった。
単に知識を得るためだけならば、本を読めば十分であるし、ネットを使えばもっと簡単に得ることも出来る。特にネットがこれだけ普及している点を見ると、人類はこれまで経験したことのない時代、知というものへ誰でも容易にアクセスできる、そういう時代に突入したのであろう。美味しい店を探したければ店評論のブログにアクセスすればいくらでも評判は書いてあるし、欲しい本があればすぐにネットで取り寄せも出来る。どういう本を読むべきかについてもネットはこれまでもかというほど丁寧なアドバイスがあふれかえっている。かつては下手をすると一生かかっても到達できなかった知識への希求が、誰でもいとも簡単に、容易にアクセス出来るようになった、我々はまさに驚愕すべき時代にいる。
しかし、そうした、知識への容易さ、というのが果たして本当に「知識」たり得るのだろうか。知識はアクセス容易な情報だけで得ることができるのだろうか、その点を考えてみる必要がある。
本にせよネットにせよ、伝達される知識というものはあくまで’文字’での情報でしかない。画像、映像もあるが基本は文字情報である。
文字表現はいうまでもなく言語表現であるが、言語は人が発信するものである。人は、情緒、感情を含めて情報発信している。従って、文字だけで本来果たして全て表現しきれるのか。文字は言語の完全な表現たり得るのか。
実際、今回の氏の話を聞いていて、氏がなぜ品質にこだわるのかは氏のゼスチャーから氏の信念としてよく伝わってきたし、それが聴衆に訴えかけるものとして聴衆の1人としてしっかりと受け止めることが出来た。会場で時間を共有し、直接面前で対話しなければ決してこうした理解は出来なかったであろう。本を読むだけでは決して得られるものではない。
ネット全盛期の今こそ改めて考え直す必要があるだろうと思う。人のコミュニケーションは本来総合的なものである。単に言語表現だけでなく、ゼスチャーや話の’間’、いわば言語外表現であるが、言語表現と言語外表現が相まって総合的に対話として成立するものである。対話の持つ意味、対話でなければできないこと、を今一度振り返ってみる必要がある。
私は、正直言えばこれまで講演というのはあまり評価してこなかった。本を読めばわかる、情報は自分で取ればよい、そういう考えだった。
しかしながら、今回氏の講演を聴き、人から話を聞くということがいかに大切か、恥ずかしながらようやくわかった気がした。
まして、これだけ文字による’情報’が氾濫している現在だからこそ、こうして直接話を聞く機会というのは今後改めて重要になってくるのではないかと思う。
もちろん、本を読むことは大切であるし、ネットも使ってどんどん情報をとっていかないとあっという間に取り残されかねない、厳しい時代にもなった。しかし、それ故にこそ、時間を作って直接話を聞く、という機会も大事にしていきたいと思う。
夕学五十講にはその後時間がとれずなかなか参加できてはいないが、また折りを見て参加し、直接話を聞き、大いに学び成長していきたい。

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