学びの体験記
2011年04月12日
「ラーニングイノベーション論」で得た新しい「学び」の学び
井手 幸史
IT系企業で企業内講師をしています.ソフト開発エンジニアとして蓄積してきた知識やノウハウを後輩に提供するのが本来の役割、学ぶよりも教える役割ですが、最近益々、新たな学びへの焦燥感を感じている自分がいました。
IT技術も学びの環境も、今大きな変化の真っ只中。知識はネットから簡単に手に入る時代になりました。知識を伝えるだけの講師のあり方はすでに終わっているのではないかという思いとともに、イノベーティブなプロを育成すると標榜しているからには、既存知識の適用だけでなく、自分自身がイノベーティブな学びを創造して行く必要があろうという思い。個々に講義を聞いたり、本やネットで調べるだけでは得られない何かをつかんでもらえるような役割を果たす必要があるという思い。こう言った思いが強く生れていました。
「ラーニングイノベーション論」との出会い
たまたま目に止まった、慶應MCCで中原先生がコーディネートされている「ラーニングイノベーション論」コース、全12セッション。受講してみて、その内容に加え、一緒に受講した、学びに前のめりなクラス仲間とのつながりのおかげで、これまでにない深い学びを実体験することができました。
毎回のセッションは、事前に課題図書を読み課題の提出、教室でゲスト講師の講義、職場に結び付けた問いかけ、グループ対話し模造紙にまとめ発表、先生方からのコメントという順で進みます。最後に中原先生がラップアップされ、受講後、次回までに事後課題(リフレクションシート)を提出します。この流れ(「イタリアンミール」モデル)がまず新鮮でした。
グループ対話では、一人ひとり経験も立場も知識も異なるため、同じ講義を聞いても受け取り方が異なります。個々に講義を聞くだけでは、一面的な受け取り方になっていたことか分かります。多様な受け取り方を交換しあうことで多くの気付きが生まれますが、これを30分でまとめようとするとモヤモヤが残ります。このモヤモヤが大切な働きをすることが後に分かってきました。
そこで得られた「学び」の学び
我々のクラスでは、セッション終了後に感じたことを交換しあう場が自然発生的に生まれてきました。最初はメーリングリストを使って、違和感を他の受講生に問いかけたり、感じたことなどを交換することから始まりました。セッションを重ねるうちにこの場は twitterに移行し、セッション終了後のリフレクションツイートがクラス仲間の間での習慣になりました。これが、各自のモヤモヤを整理して行く役割を果たしたと思います。
新しいインプットが、既に頭の中にある知識や記憶などとうまくつながらずに、一部を変形したり、手放したりする必要がある、それが感覚の上でモヤモヤとして現れるのだと思います。これを交流することで、お互いの違和感や共感が共振したり減衰しあったりして、既存知識などとだんだんと整合して行くという、そんな感覚でした。従来と次元の異なる「学び」だと思います。
本の紹介、サプライズ、そして番外編
クラス仲間相互にお薦めの本を紹介しあい、それをきっかけに知らない分野を調べ始めるなど、触発されるところも多く、大変刺激をもらいました。さらには先生の誕生日祝いのサプライズを準備したり、卒業文集を作ったり、学びの場を楽しく盛り上げてくれるメンバーの存在も大きかったです。
コースの終盤に入って、セッションの形をそっくりまねした対話の場や、新たな先生をお招きして「番外編」なる裏セッションを企画するメンバーが現れ、コース終了後もほぼ毎月、我々自身で創る学びの場「番外編」が続いています。今年に入ってからは2009年受講生の勉強会「学びYA」とも連携を始めました。
コース自体からの学びに加え、楽しみながら学びが学びを呼ぶ循環を生み出すに至った仲間とのつながりは、この上ない無形財産となっています。
これからの講師の役割
社内講師という立場に戻って考えると、受講生皆が同じ学びを得るという暗黙の前提を手放し、人それぞれが異なった学びを得た上で、それを交流することで高次の学びを紡ぎ出す、これが今現れつつある時代の学びなのだということを学ぶことができました。そこでの講師の役割は、きっかけを作り、モヤモヤを引出し、つながりを促進し、持論作りと行動を支援する、この一連の流れを体験として提供すること。一人ひとりの異なるあり方を尊重し共鳴しつつ、関係の網目の中でともに歩む。これからの講師の役割について、こう確信するに至った次第です。
ちょうど昨年の今頃、受講を申し込んだ時期、どんなコースが始まるのだろうとワクワクしていたことを思い出します。今、これからさらにどのような学びを自分たちで紡ぎ出して行くのか、十年後は…? ワクワクは続きます。
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