夕学レポート
2011年10月20日
「感じる」「創る」「動かす」 前刀禎明さん
iPod miniの仕掛け人として、日本でのAppleブランド復活を成功させた前刀禎明さん。
昨夜、前刀さんの具沢山てんこ盛り丼のような夕学を終えて、東京駅のホーム階段を昇っていた時、NTTドコモGALAXYタブレットの広告ポスターが目に飛び込んできた。
失礼ながら、そのキャッチコピーに、思わず苦笑いしてしまった。
「軽く、薄く、そして速く!!」
同時に、講演の中で紹介されたニュース映像が想起した。
2004年、iPod miniの発売当日の朝、銀座のアップルストアに向かおうとする前刀さんを追いかけた映像である。前刀さんの肩越しに見えるビルに掲げられた大きな街頭看板は、iPod対抗として発売されたばかりのソニーのネット対応型のMDウオークマンの広告であった。
「13000曲が入る!!」
微かに見えたキャッチコピーには、それに近い表現が謳われていた。
小型化したために、1000曲程度しか収容できなかったiPod miniとの機能面での差別化を狙った訴求であることは明らかであった。
ドコモGALAXYタブレットの広告に関していえば、日本企業の戦い方は、7年前とまったく変わっていない。
いつの時代も、勝負を掛けるのは「機能の優位性」である。
前刀さんの講演で、改めて再認識できたように、iPod mini発売にあたって、Appleの戦略は、「土俵を変えること」であった。
「Good bye MD」
MD全盛だった、日本の携帯メディアプレイヤー市場に参入するにあたって、Appleは、既存市場を否定するメッセージを発信することから始めた。
iPod miniは、五色展開のカラーバリエーションを武器に、ファッションアイテムとして売り出した。Appleが注力したのは、機能ではなく、「感性の訴求」であった。
この戦略に、日本人はまんまと乗せられてしまったわけだ。
不確実性の高い時代には、先が見えない中でも変化の予兆を感じ取り、新しい価値を創り出し、心の琴線に触れることで人を動かすことが求められる。
「感じる」「創る」「動かす」
その全てに影響を及ぼすのが「感性」である。
ドコモやソニーの開発者やマーケッターの気持ちを代弁するならば、「そんなことは言われなくても、とっくの昔から分かっている」ということだろう。
何が競争優位を決めるのかは誰にでも分かっている、分かっていても、すぐに真似ができない。それを「コア・コンピタンス」という。
Appleにとって、デザインへの偏執狂的なこだわりは、まぎれもなく「コア・コンピタンス」である。スティーブ・ジョブズが56年という短い生涯を代償にして、組織に埋め込んだものだ。
わずか3年間ではあっても、そこにどっぷりと浸かった前刀さんには、「感性」の持つ破壊的な力が身に染みているのかもしれない。
これから面白くなるというタイミングで(実際に快進撃を続けた)Appleを退社した前刀さんが、選んだのは、五感・感性教育を目的とする教育事業会社の起業であった。
前刀さんによれば、スティーブ・ジョブズはアメリカの風土が産んだアメリカらしい天才ではないという。MBA全盛のアメリカ経営からすれば、「感性」を武器にしたジョブズはむしろ異端であった。
だとすれば、日本からも第二のジョブズが産まれる可能性はある。
そのためには、五感を磨き、感性を培う教育が必要になる。
人がもともと持っている感性・創造力・表現力を育むことを目的として、独自の教育プログラムを提供すること。また感性・創造力・表現力を高めることをキーワードに新しいサービスの開発・提供を行うこと。
それが、前刀さんが起こしたリアルディアの事業内容である。
7年前のニュース映像に比べると、いまの前刀さんの方が断然若々しく見える。自らの感性に忠実に、やりたいことをやっているからであろう。
「元アップルの前刀さん」ではなく、「教育イノベーターの前刀さん」
そう呼ばれる日も遠くないかもしれない。
この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/10月20日-前刀-禎明/
この講演には、1件の「感想レポート」が寄せられています。
・「五感を活かした感性の訴求」(人事課さん/会社員/40代/男)
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劉 慶紅
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