夕学レポート
2011年10月18日
「協働のイノベーションを」 金子郁容さん
1995年は、「ボランティア元年」と呼ばれている。
キリスト教文化がない日本には、ボランティアは根付かないと言われていたにもかかわらず、阪神淡路大震災には、130万人以上のボランティアが全国から集まり、被災者の救援と復興に尽力し、大きな成果があがったからである。
「人の役に立つことは、人間の喜びにつながる」
このシンプルな原理に多くの人が気づいたからだ。
震災の3年前に、『ボランティア』という本を著し、日本のボランティア運動に最初の指針を示したと言われる金子郁容先生はそう振り返る。
2011年、「ボランティアは当たり前」になった。
東北大震災の際に、避難所の人々と支援やケア、子供達の世話、ガレキ処理等々の実働部隊として、まず期待されたのは、ボランティアであったし、期待通りの働きをしたという。
いまや、ボランティアは、公共サービスの担い手として、欠かせない存在になった。
この流れを受けて、民主党政権発足と共にスタートしたのが「新しい公共」構想であった。
「官が担う公」の時代から、「民も参画する公」の社会へ。
金子先生が座長を務めた一連の活動は、稚拙な政治に翻弄され、傷だらけになりはしたが、その理念と方向性は、間違いなく正しいものだった。
目立つことは少なかったが、成果も上げることができたという。
例えば
・寄付の税額控除制度
・NPOの仮認定制度
しかし、「ボランティアは当たり前」の時代になったがゆえの問題点も顕在化してきたと金子先生は言う。
ボランティアの主体になるNPOの相互連携の脆弱さ、協働の欠如である。
思いが強い分、ささいな相違で歩み寄れない。NPO戦国武将化が起きているという。
今回の震災でも、数多くのNPOが懸命に活動していたが、個の力を全体の力に繋げる機能がないことが問題になったという。
これは、ネットコミュニティの特徴である。
情報があっという間に世界を駆け巡り、個人が動き出すが、それが調整されたシステムにはならない。
いまこそ、「協働のイノベーション」が必要である。
金子先生は、そう主張する。
ネット社会の利点を活かしながらも、リアルな人間関係の世界で培ってきた、助け合い、繋がり合いを埋め込んだ、新しい「協働」のあり方を構築しなければならない。
「協働のイノベーション」の具体例として、金子先生は医療の世界の事例をいくつか紹介してくれた。
・鹿児島県立鹿屋医療センターと地元医師会の「協働」
医師不足による地域医療サービスの低下(外来の待合時間、救急医療体制)に悩んでいた鹿児島県大隅半島で、県立病院と地元開業医が「協働」することで、大きな成果を上げた事例
・地元コミュニティーと「協働」した遠野市の遠隔医療システム
地域の集会所に遠隔医療システムを導入し、地域の高齢者が語らい、助け合いながら遠隔医療を利用できるようにして、健康増進に役立てた事例。
いずれも日本人が得意にしてきた濃密な人間関係をベースにしている。
閉鎖性が強く、しがらみから硬直的になりがちという欠点を、いかに解決するかが鍵を握る。「新しい公共」という理念の崇高さが、この時に生きてくる。
固い扉を開き、コリをほぐすためには、利害や損得を越えた理念が役に立つ。
これが「協働のイノベーション」のポイントではないだろうか。
今回の震災は、不幸ではあったが、「新しい公共」を実践するきっかけづくりになったと金子先生は言う。
例えば、この活動
・C3NP(東日本大震災 継続ケア・キュアネットワークプロジェクト)
遠隔医療システムの利点が最大限に活用できるチャンスと言えるだろう。
あるいは、これ
・ミュージックセキュリティズ被災地応援ファンド
何に使われるのかがブラックボックス化された寄付金よりは、自分の判断で対象者を選ぶことが出来るファンドの方がいいと思う人も多い。
「人の役に立つことが、人間の喜びにつながる」
この原理に軸足を置いて、個の志を集め、民の力を集約し、ITを活用して人力では出来なかったサービスを実現する。それは、規模の大きさを競うイノベーションではない。たとえ小さくとも、キラリと光るイノベーションである。
「協働のイノベーション」とはそういうものである。
この講演に寄せられた「明日への一言」です。
・http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/10月18日-金子-郁容/
この講演には、1件の「感想レポート」が寄せられています。
・「新しい公共」における自治会の役割(相模の黒豚さん/会社員/40代/男性)
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