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夕学レポート

2012年01月31日

イノベーションは経済社会を変えること  武石彰さん

photo_instructor_599.jpg慶應MCCのagora講座で、ドラッカーシュンペーターの著作を読み込んだことがある。
二人とも、19世紀末のウイーンで生まれ、上流階級の父親同士が友人で、幼い頃から交流があったと言われている。
第一次世界大戦で故国(オーストリー・ハンガリー帝国)が消滅する悲劇を経て、米国に渡り学者として名をなした二人に共通するのが「イノベーション」という概念である。
「経済発展の原動力は、野心に富んだ企業家によって起こされるイノベーションである」
シュンペーターは、そう言った。(『経済発展の理論』)
「企業は社会の機関であり、その目的は顧客の創造である。そのために企業に必要な機能はイノベーションとマーケティングである」
ドラッカーはそう喝破した(『現代の経営』)
共通するのは、イノベーションは、社会を変えること。その担い手は企業家であること。ということであろう。
一方で、現代のイノベーション論議には、こんな意見が必ず出てくる。
「イノベーションの重要性はわかった。どうすればいいのかを教えてくれ」
「イノベーションを産み出す手法、マネジメント、組織の作り方、能力は何なのか」
ドラッカーや、シュンペーターが生きていれば、きっとこう答えるだろう。
「それを問う前に、お前は何のためにイノベーションを起こしたいのか」
残念ながら、両者の距離は随分と遠い。
武石先生の立ち位置は、両者の間を経営学の知見を使うことで埋めることかもしれない。


武石先生はイノベーションを次ぎのように定義する。
「経済成果をもたらす革新であり、革新による価値創造である」革新をテコに経済社会を変える。経済社会を変えるために革新を活用する。
おわかりのように、スタンスは明らかにドラッカー、シュンペーター寄りである。
技術開発により、新たな商品・サービスが生まれ、それが多くの人に受け入れられ、利益があがって、経済成果に繋がること。それによって社会が変わる。企業は社会における役割を果たすことができる。
ここまでいって、はじめてイノベーションが実現する。
イノベーションのプロセス=どのようにしてイノベーションが起きるのか、を研究してきた武石先生には、「どうすればイノベーションは起きるのか」という問いへの答えはなくとも、「この壁をクリアできなければイノベーションは起きない」というクリティカルポイントは見えているようだ。
それは、武石先生の言葉によれば「経済社会への働きかけ」が出来るかどうかである。
技術開発や、商品の革新性だけではイノベーションは起きない。
むしろ、新たな技術や商品・サービスを使って、社会のどんな問題を、どうやって変えていくのかというビジョンがあるかどうか。そのビジョンに向けて、社会に対して働きかけができるかどうか、である。
働きかけは、時には、生産システムの開発であったり、原材料の確保であったり、販売システムの構築であったり、制度・政策を変えるロビー活動であるかもしれない。政治的で人間的な活動である。
ウィンドウズは、技術の優位性ではなく、ディファクトを握るという戦略によって、PC時代の覇権を握り、社会を変えた。
iPodは、iTunesという音楽流通システムをも備えたことで、圧倒的なシェアを奪い、社会を変えた。
そのプロセスは美しいストーリーで語られるけれども、実際は、もっとドロドロとして、人間臭く、血生臭い戦いを必要とする。
ネットという新しい技術が登場した今も、まったく同じ構図が展開されている。
既得権益側からの、命懸けの妨害戦に耐え、粘り強く戦い続ける体力と、相手を上回るしたたかな立ち回りと、融通無碍な対応力がある者だけが、イノベーションを起こすことができる。
「それこそが企業の役割である」「それこそが経済発展の源泉である」
ドラッカーも、シュンペーターは、きっとそういうだろう。
ちなみに、講演の中で見せてくれたMOTの教材ビデオは、武石先生が一橋大時代に製作したものだそうです。(無料で借り出しが出来るそうです) こちらへ
講演では、ほんの一部でしたが、全13巻の大作になっています。素晴らしい教材だと思います。
今期の夕学は全て終了しました。
たくさんの方にお越しいただきありがとうございます。
現在、4月からの次期の企画の真っ最中です。
3/1から申込受付の開始致しますので、来期もぜひよろしくお願い致します。

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