夕学レポート
2005年11月08日
一人に対して百回同じことを言って、はじめてわかってもらえる 大橋洋治さん 「アジアNo1を目指して」
昨日、多くの新聞に日本航空の決算下方修正の記事が掲載されました。その対比で全日空の業績についても触れていたのをご覧になった方も多かったと思います。米国の航空会社が次々と破綻していることからもわかるように、世界の航空業界を取り巻く環境は、けっして安泰ではありません。日本航空でも原油高の影響を受けて、燃料費が前年比450億円増に上昇してしまったことが収益に大きく影響をしたとのこと。同時に全日空が燃料費をわずか90億円増に抑制できたことが業績の違いの要因になったとの解説がありました。
全日空は国内線や近距離国際線がメインなので、長距離国際線中心の日本航空とは前提条件が異なるものの、そこまでの燃料費抑制ができたKSFは何だったのでしょうか。きょうの講演は、その理由の一端を知ることができたような気がします。
大橋会長はとても包容力のある方です。夕学では、これまでにも多くの企業経営者の方々にお越しいただいてきました。控え室に入るなり、室内に緊張感が漂うような厳しい雰囲気の方も多いのですが、大橋会長は、全身からあたたかいお人柄が滲み出るような方です。とはいえ、全日空の再建途上では、社員の基本給一律カットなどハードな構造改革もあったようです。必要な場面では、躊躇せずに厳しい決断を下す力強さも合わせ持ったスケールの大きな包容力といえるかもしれません。
そんな大橋会長が、全日空の再建にあたって、最も力を入れたのが「ダイレクトトーク」と名付けた社員との直接対話です。3年半の間に、実施回数は100回を越えたとのこと。一週間に一度のペースで開催したことになります。秒刻みにスケジュールを縫って、これをやり抜いたところに大橋さんの愚直なまでのこだわりを感ぜずにはいられません。想像してみてください。社員の方は初めての直接対話の機会とはいえ、大橋会長の立場からすれば、毎回同じ内容の話をし、同じような質問や意見を受け、同じような説明や説得をするわけです。リストラ真っ直中の緊張感の高まる社内状況の中で、それを繰り返す精神的なストレスというのはかなりの負担であったことは間違いありません。しかし、それをやり抜いたからこそ、現場レベルでの問題意識や方向性の共有化が可能になったのでしょう。
冒頭で触れた燃料費の削減は、航空機種の統合によるコスト削減効果もあったでしょうが、乗客数に応じた航空機種の適切なマッチングが一番の決め手になったはずです。そのためには、各便毎の乗客数の予測とそれに基づいた機種のアサインが必要になります。しかも季節や地域催事に応じて変更する柔軟性も求められるでしょう。想像を絶する緻密な作業です。関係部署との調整も煩雑になることでしょう。それらは現場レベルの意識改革がなければ出来ないはずです。ひとつ一つは小さなそれでいて重要なことの積み重ねを愚直に続けることが他社には真似のできない組織能力につながるという企業変革のテーゼを見るような気がします。
大橋会長は、控え室で「ダイレクトトーク」についてお伺いした際に、「一人に対して、百回同じことを言ってはじめてわかってもらえる」とおっしゃいました。大橋会長の真髄を物語る言葉だったと思います。
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