夕学レポート
2006年04月20日
「戦略とアイデアをつなぐ」 荒木重雄さん
WBC優勝の反動を一番受けてしまったのが8選手を送り込んだ千葉ロッテで、開幕ダッシュは足踏みしてしまいました。ここに来てようやくエンジンもかかり4連勝中(4/19現在)。そんなチームの上昇軌道に合わせるよう荒木さんの講演日がやってきたから不思議なものです。講演の中でもあったように、荒木さんが、千葉ロッテに入ったきっかけは東大のスポーツマネジメント講座の受講にあったそうです。偶然同じ受講生仲間として千葉ロッテの球団社長がおり、トントン拍子で話が決まったとか。とはいえ、単なる偶然ではなく、かねてからプロ野球ビジネスに関わることを考えていた荒木さんは「いくならロッテだ」と決めていたそうです。
MBAホルダーで、通信系外資系企業の日本法人社長まで務めた「経営のプロ」である荒木さんの目から見ると、変革期にあるパリーグこそ絶好のフィールドに思えたそうです。通信ビジネスの経験から楽天やソフトバンクが取るであろう戦略は想像できる。パリーグ現存球団で最も長い歴史を持ちながら、球団再編劇の際には、堤清明氏にダイエーと統合させられそうになった危機体験のあるロッテこそが、もっとも変革と創造を必要としている球団に見えたのでしょう。
球団再生に向けて、社長自らがビジネスを学ぼうとしていた千葉ロッテとチャンスを探して虎視眈々と腕を磨いてきた荒木さんが出会った場が東大のスポーツマネジメント講座で、それは偶然とも、必然ともいえる出会いであり、茂木健一郎さんの言葉を借りれば「偶有的」出会いだったのかもしれません。
荒木さんによれば、ロッテが千葉に移転した92年以降の球団経営の軌跡は「プロ野球版失われた10年」とも呼べるものだったそうです。グローバリズムの奔流に晒されてもがく日本企業のように、プロ野球からも多くの人材がメジャーに流出しました。多極化・多様化の進展が定番商品をなくしたように、プロ野球一極主義が崩壊しました。悩める日本企業の縮図のような閉塞感に覆われながら、プロ野球は閉ざされた「内輪の論理」優先のまま行き詰まったといえるそうです。荒木さんは、これを「“野球界”を“野球業界”へ変革する」チャンスと捉えました。自分たちを特殊な世界の存在と限定せずに、普遍的なビジネスの理論やフレームを適用することで、ブレークスルーできるはずだと考えたわけです。
講演を聴いて感じたのは、戦略とアイデアの有機的な連結が持つダイナミズムでした。戦略だけを考えるコンサルタントはたくさんいます。アイデアの豊富な代理店やイベント会社もあるでしょう。でもシンプルな戦略を手作りのアイデアで具現化し、心を込めて実践しなければ、感動を呼ぶことはできません。そこには紐帯となる社員の当事者意識が不可欠です。千葉ロッテの成功には荒木さんのもとに集ったスタッフによる戦略とアイデアの連結があったことが非常によくわかりました。
荒木さんの目には、長い歴史と裾野の広いファンを持つプロ野球が、ビジネスチャンスの宝庫のように思えるそうです。「プロ野球は儲からないのです」と言って非難を浴びた高名なオーナーがいましたが、視点を少しかえるだけで、チャンスはいくらでもあるのではないかと感じているようです。球団が潤えば選手が潤います。「メジャーにいくより日本に居た方がずっといい」選手達がそう言う時代が来る日を荒木さんは目指しているのでしょうか。
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