KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年05月10日

「異質性の強味」 宋文洲さん

「イノベーションは辺境から起こる」という言葉があります。どんな事であれ、流れの真ん中から少しはずれたところに位置することで可能になる異質性と客観性の確保が革新の萌芽になるという意味なのですが、宋文洲さんは、まさに異質性を武器にして日本が抱える問題に鋭いメスを入れている方なのだという印象を持ちました。中国人、ニートも経験、工学博士でありながら経営者、理系出身の経営コンサルタント、まともな人材を採用できない位の零細ベンチャーの経営者、宋さんの経歴を見てみれば、およそ日本の営業革新を語る際には、最も異質な立場にいる人に思えます。だからこそ、誰もがおかしいと思いながらもそこから抜け出せないでいる事柄に対して、「そこが変だよ」と声が上げられるのかもしれません。
例えはよくないかもしれませんが、裸の王様に対して裸であることを声高に指摘した少年のような存在といえるでしょうか。


宋さんが指摘するように、プロセスマネジメントの有効性は日本の製造業がその正しさを証明してきた事実です。対象がものであろうが人間であろうが、工程を目的に応じて分解し、その目的に照らした活動と評価基準を設けることが効率的なことは自明のことではあります。要は私たちの意識の中に、普遍的なものを特殊だと決めつけてあきらめてしまう姿勢にあります。宋さんはそんな事象に対して「あなたはなぜ裸なのですか?」と遠慮なく指摘することで、相手に裸であることに気づかせる小気味良さがあります。
また宋さんは、「優秀な人材がいないからできないのではない。その人間に合わせて仕事をブレークダウンすればいいのだ」と喝破されます。これも正直ハッとする一言でした。如何にして優秀な人間を採用するか、如何にして優秀な人間に教育するかに腐心して、莫大なお金を費やすことが盲目的に信じられていますが、人材を与件と考えて、その能力に合わせて仕事を設計し直すことができれば、間違いなく生産性はあがるでしょう。考えてみれば、人類の進歩というのは、これをやってきた歴史とも言えるわけで、人間の能力というものは、科学技術の進歩ほどは向上してないのかもしれません。
控室では「私は、人間を変えることはできないと思います。それより人間を換えた方が断然早いですよ」ともおっしゃいました。確かにおっしゃる通りです。
こう書くと宋さんの主張がひどくドライで冷たい感じの思えてきますが、実際の宋さんは私たち日本人の心のヒダをしっかりと捉えるウェットな部分も持っていらっしゃいます。
中国出身の留学生が、バブル崩壊の痛手を最も手ひどく受けた北海道で、たった一人で起業し成功するということは、並大抵の苦労ではなかったはずです。そんな苦労話を、あのなんとも言えない人なつっこい笑顔で面白おかしく語ってみせる姿には、修羅場をくぐってきた人達だけが持つオーラがありました。
お帰りになる際に、「早稲田でも講演をしましたが、慶應の方が受講生もスタッフの対応も断然いいですね」とヨイショもしていただけたことも付け加えておきます。

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