KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2006年07月11日

「真剣勝負の経営教育に生きる」 一條和生さん

夕方6時前、丸ビルの一階エレベータ前で、偶然一條先生と一緒になりました。細身の身体にフィットしたグレイのスーツにピンクのシャツを合わせたクールビズスタイルです。いつもながらのお洒落な装いを話題にしながらお声をかけたところ、ニコニコと頭を下げるだけで声を発しません。エレベータの中でようやく絞り出された声がすっかり枯れていて吃驚。スイスと日本を年間20回以上往復する激務もあって体調を壊されたとのこと。
最高のパフォーマンスを出すことを信条とされている一條先生としては、忸怩たる思いもあったかと思います。会場内のマイクがどこまで自分の声を拾ってくれるか、そればかりを心配されて講演ははじまりました。


講演は、一條先生が教授を務めるスイスローザンヌのビジネススクール「IMD」のコンセプトと学習システムの紹介が中心でした。先生の強い思い入れもあって「これはIMDの宣伝なのか」という印象をもたれた方もあったかと思います。それだけ、IMDに共感をしているということでしょう。日米のビジネススクールやエグゼクティブ教育の実態に精通している一條先生が、そこまで惚れ抜いた理由は何なのか。それを考えながら講演を聴いておりました。
一條先生によれば、IMDのコンセプトは次の4つに集約されるそうです。
1. Real World-Real Learning「理論はわかった。ところでその理論で俺の抱えるこの問題をどう解決できるのか」という受講生の問いに真正面から向き合う実践的な教育の場であること。
2. The Global Meeting Place多様性な人々でチームを組んで最高のパフォーマンスを上げる場を目指していること。
3. Real Learning is Lifelong Learningクオリティの高い継続学習の仕組みを完備していること。
4. 徹底した顧客志向
民間企業の方には、当たり前のことに感じるのかもしれませんが、実は上記のコンセプトを前面に打ち出し、しかも本気で取り組んでいるビジネススクールは、日本はもとより、米国でもほとんどありません。例えば「tenure」(終身任期)の話。日本であれ、アメリカであれ、大学の先生というのは、なるのは極めて難しいことですが、一度なってしまえばその地位を保持するのが容易な職業の代表です。成果主義の世界で生きるビジネスパースンからみれば「既得権益に守られたぬるま湯」と言われてもしかたなでしょう。もちろん学問の府に短期的な指標を持ち込むことは間違いだという意見もあるでしょうが、少なくとも経営学を教える先生が、組織的な赤字を放置していたり、競争環境と無縁の安全域で安穏としていたりすること間違いだという主張は極めて健全なものだと感じます。
その健全さが既存の大学に残念ながら存在していないこと、そしてIMDが真っ正面からそこに切り込んでいることへの共感こそが、一條先生がIMDに惚れ抜く理由ではないでしょうか。
出なくなった声を振り絞り、身振り手振り、表情を駆使して、なんとか聴衆を満足させようと懸命にがんばった一條先生の姿には、真剣勝負の場で生きていることを選んだ人の「凄み」を感じました。

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