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三浦 展 「下流社会の実像」

2006年07月11日

三浦 展 カルチャースタディーズ研究所主宰、消費社会研究家 >>講師紹介
講演日時:2006年5月18日(木) PM6:30-PM8:30

三浦氏は、まず、昨年ベストセラーになった『下流社会-新たな階層集団の出現』(光文社新書)の内容について触れました。同書で示したかったことは、「日本は下流社会である」ということではなく、下流化のトレンドが始まっており、日本の一部に下流社会が形成され始めているということだったのだそうです。
ですから今のところ、日本はまだまだ「中流社会」と言えるのだそうです。


では、そもそもいつ頃から中流社会になったのでしょうか。それは約30年前だそうです。三浦氏が77年に大学入学した頃、「日本は中流社会になったのか・ならないのか」という論争が起きていました。当時の内閣府の国民生活世論調査では、「あなたの生活の程度は世間一般と比べてどれくらいですか?」という質問に対して、「中の中」の回答だけで6割、「中の上」、「中の下」を合わせると9割にもなり、「一億総中流」などと言われていました。
もちろんそれ以前、たとえば昭和33年のデータだと、「中の下」以下、つまり真ん中より下と回答した方が55%に達した社会でした。当時は、「上」の人はごくわずか、「中」の人もそれほど多くなく、「下」の人が多いというピラミッド型の明らかな「階級社会」でした。しかし、その後の経済成長によって、中流になる人が増えていき「中流社会」が実現してきたわけです。
直近に戻って2004年のデータを見ると、「上」が10%ほどに増え、「中」は52%に減少、「下」が34%に増加と、「上」と「下」に二極化する傾向がうかがえるそうです。電通総研や日経、朝日新聞などが行った類似の調査を示しながら、三浦氏としては、現在の階層構成はおよそ、上:15%、中: 45%、下:40%と推定しています。階層間の移動について言えば、「中」から「下」に落ちる人はたくさんいる、「中」から「上」に上がる人は少ない、「上」から「中」に下がる人も少ないということだそうです。
三浦氏は、そもそもマーケター、消費社会研究家として、近年の「階級化」と消費すなわち「生活様式」との関連を研究しています。その成果が前述の本(下流社会)にもなり、この研究の一環として行った2004年の実証調査の結果から、特に若者の意識に注目をするようになったということです。
同調査では、団塊ジュニア(30代前半)、新人類(40代前半)、団塊世代、昭和一桁世代のそれぞれに階層意識を聞いたところ、団塊ジュニアの男性では、「下」との回答が48%に達し、2年前の調査当時は非常に驚いたそうです。一方、昭和一桁世代や団塊世代の方は、6-7割の方が、「中」と答えていました。また、昨年は、女性について調査したところ、団塊ジュニアの女性については、45%が「下流」と答えていました。
三浦氏は、30歳前後の層では、男性、女性とも下層意識を持っている人が過去5年で増大しているという点を強調します。そして、三浦氏が懸念するのは、 20代後半の男性の大半は未婚であり、これから結婚して子どもを2人作って住宅ローンを組んで家を持つとなると、生活費が増えて「下」にならざるを得ないこと。また、逆に「下」になりたくなければ、引き続き結婚しない、結婚しても子どもを作らない、作るとしても一人だけ、といった戦略を取ることになり、少子化が進んでしまうことです。
少子化にも影響を与えている、団塊ジュニアにおける下層意識の増大の背景は、直接的には雇用の悪化、そして、フリーターに代表される非正規雇用者の増加にあると、三浦氏は指摘します。フリーターはその収入の不安定さから結婚相手として選ばれにくいため、フリーターの増加もまた、少子化を助長してしまっているそうです。したがって、雇用対策と少子化はセットで対策を打つべきであると三浦氏は考えています。
また、結婚と階層意識の関係を見ると、30代前半の未婚の男性の7割は、「下」です。逆に結婚している男性は、6割が「中」と答えています。一方、女性で未婚の方は、5割が「下」であり、逆に、結婚している女性は、6割が「中」と答えています。これは、結婚すると「中」になれるというのではなく、「中」になれる人が結婚できるということを意味しています。年収と結婚率でみるとこの理由がはっきりわかります。年収150万円未満では一人も結婚しておらず、 300万円未満で8%、500万円未満で33%、700万円未満で約80%、そして、1000万円以上だと全員が結婚しているという結果が出ているのです。30代前半の男性で500万円以上の年収を稼げる方はそれほど多くないわけですが、女性が結婚相手に求める年収としては、三浦氏の調査では600万円以上との回答が64%を占めています。こうした状況が結婚を難しくしている原因なのです。
そして、「下」の人はどのようなタイプが多いかについても調査したところでは、「下」の人は、体力、精神力が「上」「中」の人に比べて弱かったり、またコミュニケーション力が低いこともわかっています。最近は、黙々と打ち込める仕事がへり、コミュニケーション力の高さが要求される仕事が増えています。このため、コミュニケーションがうまくできない人は仕事が見つからないということになり、「下」に向かうことになってしまうわけです。
さまざまなデータ紹介を通して、三浦氏の「生き方は多様化しているが幸福は多様化していない」という言葉が印象に残りました。
1970年代の中流意識が高かった時代と比較したとき、現代はライフスタイルの選択肢は増えました。しかしその一方で、幸福感に欠かせない「心のよりどころ」が定めにくくなっています。そして、自分自身の「居場所」が定まらない人が増えていることが、下層意識の増加に関連していることがうかがえました。
自分にとってのよりどころ、幸福のありようを考えさせられた講演でした。

主要著書
下流社会―新たな階層集団の出現』 光文社(光文社新書)、2005年
団塊の世代を総括する』 牧野出版、2005年
仕事をしなければ、自分はみつからない。―フリーター世代の生きる道』 晶文社、2005年
ファスト風土化する日本―郊外化とその病理』 洋泉社(新書)、2004年

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