夕学レポート
2006年07月20日
「民を主役にしつつ官が支える社会」 山口二郎さん
山口先生によれば「私は小泉政権に対する批判的な論評を、最も多く発表してきた学者の一人」だそうです。昨年夏の郵政民営化解散で小泉自民党が圧勝した影響もあって、しばらくの間、「まったくお座敷がかからない」状況だったそうですが、今年に入って以降、ライブドア事件、耐震偽造事件、村上ファンド事件と続く社会事件が続き、小泉改革が指弾してきた「官のモラルハザード」だけでなく、実は「民のモラルハザード」も同時に起こっていたことが判明したことで、コメントを求められることが多くなったそうです。
「官」か「民」かという不毛な二元論ではなく、「民を主役にしつつ官が支える」市民社会を提唱する山口先生の主張が改めて注目されているということかもしれません。
講演は、90年代以降の「改革の10年」の本質は何だったのかという確認作業からはじまりました。山口先生によると、この10年の改革の本質は、中央集権的な官僚支配の弊害を如何に除去するかにあったそうです。社会の変化に行政システムが付いていけずに、求めるものと与えるもののミスマッチがどうしようもなく広がってしまったこと。右肩上がり経済が終焉したことで、総中流化社会を目指した結果として必要になった平等な生活を保障するための行政負担の上昇を、国家がこらえきれなくなったこと。これらをどう変えるのかが改革の論点になってきました。
ところが改革の途上ではっきりしてきたのは、そもそもの改革の理念の違いが顕在化したことだそうです。競争原理と選択の自由に代表される「市場化」により効率性を求めるのか、市民の参画や連帯、公平を旨とする「民主化」「社会化」により民主性・社会性を追求するのかの違いです。かつては官僚支配を打破することで手を携えていた二つの理念ですが、「市場化」だけが進み、「民主化」「社会化」が遅れたことで両者のひずみが浮かび上がって来ました。ポスト小泉の論点のひとつである「格差社会」「地方分権」などの問題に端的に表れているそうです。
「地方分権」でいえば、財政の独立ばかりが求められ、市民参加の行政システムの整備が遅々として進まない状況の中で、改革派知事と呼ばれたリーダーも暗中模索の状況に陥っているのが現状だそうです。
そんな中で山口先生が主張するのが「第三の道」と呼ばれる路線です。族議員と官僚が中央集権的に、そして密室で取り仕切ってきた「利益誘導型システム」を一番目の道とし、小泉改革に代表される「リスクを個人に転化する」形ですすめられる「市場主義型システム」を二番目の道とするならば、「第三の道」とは、将来に不安を感じさせない程度のリスクは社会の責任として引き取った上で、低コストの持続可能な社会のあり方を市民自身の参画によって構築しようという「市民社会型システム」のことです。
「生活・暮らしは、身の丈にあったものを自分たちで考えるから、個人ではリカバリーできない大きなリスクについては、行政が責任をもって保証する」そんな社会のことでしょうか。
「そんな時代は来るのでしょうか?」という悲観的な質問に対して、「必要なのはあきらめないことです。こういう講演に100人以上の人がお金を出して集まること自体が、良質な市民が存在している証なのだから...」とおっしゃった山口先生の言葉に、強い決意のようなものを感じました。
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