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夕学レポート

2007年05月10日

“際”がないから面白い 太田光代さん

爆笑問題、特に太田光氏は、“際の見えない”芸風に特徴があります。
どこまでが芸で、どこからが素なのか。何がネタで、どれがアドリブなのか。真面目なのか、いい加減なのか。
その境目が限りなく不透明で、時に見る側をハラハラと心配させながら、しっかりと笑いを取っていくという名人芸的なところがあります。
そのあたりは、彼を高く評価しているという立川談志の芸風と似ていますが、談志のような強烈なクセを感じさせないのが彼の魅力ひとつです。
そんな太田光氏の魅力を引き立たせているのが、奥様であり、事務所社長である太田光代さんの存在と舵取りであることは周知の事であります。
プライベートをあけすけにする時の、見事な「尻の敷かれぶり」や、時に言いたことが何だかわからないにもかかわらず、口角泡を飛ばしてしゃべりまくり、やたらと本気度だけは伝わってくる討論場面などは、彼の人間味や純粋な部分が垣間見えて、“際のなさ”を“際だてる”働きをしているような気がします。
きょうの対談をお聞きすると、それは太田夫妻の共通のスタイルで、ご本人達も「際」がよくわからない。というより、ことさら「際」をつけることの無意味さをよくわきまえていて、「際」を行ったり来たりするから面白ことを知っているのかもしれません。


太田光代さんは、先天的な股関節脱臼の治療のために、多感な幼少期の3年間を病院で過ごしたそうです。しかも両足にギブスを嵌めて、自由に歩くことができない不自由な状態が続いたとのこと。
この時期の原体験が、太田さんの人間性や考え方に大きな影響を与えたことは間違いないようです。
か細い身体に秘められた強烈な意志の強さは、モデル時代の積極的にハイレグの仕事に手を挙げたという逸話に表れていると思います。手術の痕も含めて、全てが自分自身だから、全て赤裸々にして勝負したいという強さは、並の人では持ち得ない「強さ」です。
また、「この人をなんとかしてあげたい」「持ち味や良さを伸ばしてあげたい」と考える暖かな思考スタイルは、病と闘う仲間達を見つめていた少女時代に培った優しさや思いやりのこころが反映されたものだと思います。
「強さ」と「優しさ」。奇しくもリーダーに不可欠な二つの絶対的な要素を、病院という名の学校で学んでいたのかもしれません。
お話を伺うと、長井秀和も、橋本弁護士も、山中アナもそんな太田さんを信頼して自らマネジメントを依頼してきたとのこと。
太田さんには、才能を惹きつける磁力のようなものがあるのでしょう。
“際の見えない”話に戻ると、爆笑問題をはじめ、タイタン所属タレントが多数出演する人気番組『サンデージャポン』について語った場面も印象に残りました。
八塩さんによると、業界人も必ずチェックする番組だそうですが、私も日曜の遅い朝食の後に、決まって見ている番組です。
『サンデージャポン』は、情報・笑い・パロディを合体させたこれまでにないジャンルを確立した画期的な番組だそうです。
悲しい事故のニュースに飯島愛が涙を浮かべていたかと思うと、次ぎの場面では山中アナが東国原知事を追いかけ回し、デーブスペクターがアメリカンジョークですべり、高橋ジョージが激怒し、橋本弁護士がいじられる。
真面目さをチャカし、一生懸命さを笑い、深刻さをユーモアに変える。まさに“際のない”番組といえるのではないでしょうか。
太田さんが、ハーブ・アロマの専門店「ウィッチ・ムーン」を開いたのも、新規ビジネスというよりは、自分のストレスを癒すための趣味が高じてのもので、仕事とプライベートがシームレスに繋がっている証かもしれません。
さて、今回の対談では太田夫妻のプライベートな話題については、ずいぶんと慎重でした。『爆笑夫婦問題』などの著書には、あけすけに二人の暮らしぶりや愛情表現を書いていたので少し意外ではありました。
どうやら、夫婦の話題を本に書いていた5~6年前に比べると、爆笑問題の活躍フィールドは更に広がり、タイタンの事業も拡大して、夫婦二人で過ごす時間が減ってしまったようです。
いみじくも「夫婦というよりは、戦友ですね」とおっしゃっていましたが、こればかりは夫婦と仕事という“際”をなくした弊害かもしれません。
しかし、爆笑問題の笑いや『サンデージャポン』と同じように、“際”をなくした結果生まれてくるであろう新しい夫婦関係を、ネタにして笑いを取る日が来るのを狙っているのかもしれません。

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