KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2008年05月20日

自分たちが楽しいと思えるものを 星野佳路さん

創業から100年以上の歴史を持つ星野温泉。その発展・興隆・苦難の軌跡は、一温泉旅館の歴史ではなく、軽井沢の歴史であり、日本の観光産業の歴史でもあります。
星野温泉、軽井沢で起きたことは、日本中の老舗温泉旅館、観光地で起きた変化の縮図に他なりません。
3年ぶり、2度目の夕学登壇となる、今回の講演は、星野さんが、リゾート文化100年の歴史を踏まえながら、日本の観光産業のネクストステージを切り拓こうとする意気込みと戦略を感じさせてくれるものでした。
星野さんによれば、日本から海外に出かける観光客の伸長は著しいものの、海外から日本を訪れる観光客の人数はほとんど横ばいが続いているそうです。
フランスでは、人口6000万人余でありながら、海外観光客は7600万人を超え、都会から田舎まで万遍なく人訪ねてくれるとか。観光産業は立派な基幹産業と言えるそうです。
観光大国化となるための三条件は、1)国の知名度、2)交通アクセス、3)安全、があげられるそうですが、その全ての条件を完璧に満たしながらも、低位に甘んじている。それが日本の観光産業だそうです。
その原因はなにか。
星野さんは、「資金調達」と「生産性」の二つの問題を指摘します。


リゾート経営には、「開発」「所有」「運営」の三つの機能があります。
伝統的な日本の温泉旅館は、この3つの役割を全て一人の人間(家族)が兼任していることに限界があると星野さんは言います。
「所有」を分離すれば、世界中の投資家から資金を集めることが可能になります。
「開発」を分離すれば、その資金をつかって個人ではできない大型開発やリニュアルができるでしょう。
「運営」を分離して特化すれば、魅力あるリゾートづくりに集中できます。
星野さんが選択したのが「運営」に特化し、「リゾート運営の達人」となることでした。
「リゾート運営」の専門性を武器に、世界中の投資家から資金を集め、十分な利益を還元しながら、顧客満足を追究すること。それが星野さんの戦略です。
「生産性」に問題については、身近にまたとない先駆者がいることに注目しました。
日本の温泉宿泊業の生産性は飛び抜けて低く、米国のホテルと比べると五分の一だそうです。それならば、世界に冠たる生産性を誇る日本の製造業に学ぼう、と科学的管理手法を用いて徹底した効率化を行い、生産性の向上をはかりました。
91年から「リゾート運営の達人」をビジョンに掲げ努力してきた結果の象徴が、3年前に星野温泉旅館をリニュアルした「星のや」です。
24時間ルームサービス、朝食フリータイム、夕食を料金に含めず外で取ることも推奨。
中には70連泊する宿泊者もいるそうです。
しかも、エネルギー自給率75%のエコ対応リゾートです。
その成功は、経営破綻に陥った全国の老舗旅館・リゾートの再生事業に活かされ、本格的な「運営」特化型ビジネスモデルへと発展しました。
きょうの講演では、青森の古牧温泉と福島のアルツ磐梯リゾートの再生事例について紹介いただきました。
印象に残ったのは、科学的管理手法導入成果というよりは、従業員参画型の組織変革活動の成果でした。
再生のための新たなコンセプトづくりから始めるわけですが、「これでいけ」という押しつけ型や「自分たちでゼロから考えろ」という突き放し型ではなく、「この中からどれがいい」という選択肢提示段階から意見を取り込むのが効果的だそうです。
前者のふたつのアプローチでは、動かない人達が、急に積極的に変わるそうです。
その時、星野さんが彼らに言うのは「自分たちが楽しいと思えるもの」を考えることです。
さらにここで終わらないのが星野さんのすごいところです。
地域の魅力を地元の人達に挙げさせると、必ず出るのは「自然が豊か」「温泉がある」「魚が美味しい」という意見だとか。日本中にどこにいっても同じだそうです。
このステレオタイプの発想に対して、グリグリと切り込んで、「らしさ」を紡ぎ出すことを求めます。
青森の古牧温泉の場合、星野さんが「らしさ」としてアドバイスした着眼点は、「方言」でした。青森弁は何を話しているのか余所者にはわからない。いっそ「通じない旅館」というコンセプトはどうだ。そんな刺激剤でした。
このアイデアに対して、半ば反発、半ば触発されて考え出されたのが「のれそれ青森」というコンセプトでした。(もっと青森という意味)
一年中ねぶた祭りが楽しめる。津軽三味線が聴ける。めずらしい郷土の家庭料理を食べられる。等々 これでもかという位に青森「らしさ」を訴求するサービスです。
古牧温泉の売上が、前年を上回り続け、順調に回復しているとのこと。
この話を聞くと、青森漬けに浸りに行きたくなりますよね。
観光産業のリ・オリエンテーションを目指そうとする星野さん。
また数年後に、次のステップの星野経営学をお聴きしたいと思います。
最後に
講演を聴かれた方で、星野さんに質問がある方は、夕学五十講事務局までお問い合わせください。
お問合せ先 03-5220-3111
E-mail: sekigaku-info@keiomcc.com

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