KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2008年11月27日

「強みを磨き、弱みを改革」 坂根正弘さん

トヨタ、キャノンと並び、日本を代表する「勝ち組製造業」に数え上げられるコマツ。
2001年に社長に就任してから7年、売上高を約二倍、130億円の営業赤字を3300億円強の営業黒字へと転換させ、V字回復の原動力になったのが坂根正弘会長でした。
「こういう社長の下で働いてみたい...」
坂根さんのお話を聞いて、そんな印象をもたれた方も多いのではないでしょうか。
シンプルで分かり易く、本質を突いたメッセージを力強く伝えてくれる。
陰でコソコソ動いたり、誤魔化そうとしても、たちどころに見抜かれそうな「健全な恐ろしさ」を感じさせる。
反対意見であって、下の者の声に真摯に耳を傾ける度量の大きさがある。
坂根さんには、そんなイメージがあります。大企業のトップとして数万人に社員を率いるリーダーには必須の要素と言えます。
世界中から講演のお声が掛かるのも当然なのかもしれません。


「強みを磨き、弱みを改革する」
坂根さんがリードしたコマツの経営改革は、この言葉をスローガンにしていました。
コマツだけを考えて整理したのではなく、日本と日本人の「強み、弱み」をベースに考えている点で、普遍性がある整理の仕方です。
日本の強みは、「連携の強さ」と「粘り強いきめ細かさ」にある。だから複雑な製品のもの作りやチームワークには強さを発揮する。その強みは弱みの裏返しにもなり、調整に時間が掛かり、無駄も生みやすい、一社単独では海外に打って出られないといった弱点を持ちます。
坂根さんは、日本と日本人の「強み、弱み」を踏まえたうえで、改革に向けて、シンプルなメッセージを繰り返したと言います。

・日本でしか売れないものは作るな!
・量産段階に入ってからの原価低減活動をするな!
・環境・ITでは絶対に負けるな!

なぜ、儲からないのか。設計部門や米国本社勤務など現場での豊富な経験の中で、コマツが抱えている構造的問題を痛感していたからこそ自信を持って言えたメッセージだったそうです。
これが、500億円を超える固定費の削減や、製品の選択と集中を可能し、世界的に有名な「KOMTRAX」や、画期的な省エネプレス機械「ACサーボプレス」といったダントツ商品を作り出しました。
坂根さんは、さらりと言及しただけでしたが、私が興味深くお聞きしたのが、これからの日本のあり方に関わるお話でした。
坂根さんは、「建設・鉱山機械の地域別需要構成比の推移データ」「世界人口と都市化の進展データ」、「米国のGDP成長率と民間住宅着工件数データ」など各種統計数字を分析されたうえで、コマツのビジネスからみた世界経済について、独自の考え方を持っています。
「世界の余剰マネーの投資先は、いつか必ず実体経済に向かう」というものです。
インフラ整備や工場の稼働など、製造業を中心にした産業構造を抱えていない国の将来は危ういと坂根さんはおっしゃいました。
中国が、実体経済の成長余地が大きい唯一の大国である点で、これからの世界経済を牽引するだろうという意見は、世界の大勢と同じです
しかし、米国(坂根さんは米国には製造業がしっかりと残っていると見ています)、ドイツ、日本のような実体経済を残している大国の将来展望を明るく描いているのに対して、英国のように製造業を捨て、金融資本国家に衣替えをした国の先行きには疑問を抱いているとのこと。
4月に夕学に登壇された早稲田の野口悠紀雄先生とは、まったく逆の見解でした。
ダンプトラックやプレス機械を作っているコマツが製造業の未来を信じるのは当たり前だと言ってしまえばそれまでですが、「全ての答えは現場にある」と断言する坂根会長の意見に、ズシリとした重みを感じたのは事実でした。

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